第39話 神の見えざる手

 「結論から言う。リーシャは聖女だ。」


 うん、予想してた。


 うんざりした気持ちで天を仰ぐわたしの耳に、

 「何でだよ⁉️」と激昂する朔夜の声。


 「待て、落ち着け、朔夜。今書き出すから。」

 

 アイテムボックスから紙とペンを取り出し、いちごがステータスを書き始めた。


 ……リーシャ(7)……

 職業  聖女


 体力  C

 魔力  SSS

 力   C

 知力  SS 


 魔法  聖魔法全般

     生活魔法


 「聖魔法って?」

 「初めて聞いた。」

 「ああ、聖魔法って言葉を鑑定したら、回復、支援、防御魔法全てだって。」


 うえ?

 いちご、言葉の意味まで鑑定したの?

 どんなチートだよ。


 リーシャには勇者特有の、ステータス、アイテムボックスは無かった。


 「続けるぞ。」


 スキル 自己犠牲


 称号  生け贄乙女


 ……


 最悪だ。

 趣味が悪過ぎる。


 「くっそう‼️」と、朔夜が吠えた。


 「落ち着け、朔夜。リーシャには、初め魔力は無かったんだろ?」

 「そう、思います。鑑定は無いので予想ですが。」

 「うん、多分、朔夜がリーシャを引き取った、その時付与されたと思う。」

 「でも‼️なんで⁉️」

 「この世界の神なのか、世界の壁自身なのか、悪趣味だからさ。」


 『神の見えざる手』と言う言葉が浮かぶ。


 「召喚勇者が日本に片寄るのは、アルスハイドと繋がるのが偶然日本なだけで、他意はないと思う。」


 1人外国人がいるが、彼女の召喚は留学先の日本からだし。


 「ただ、わたし達が引っ張られて、特別なスキルを授かったのは作為的って言うか、遊んでるよ、多分。」

 「え?」

 「遊びって?」

 「うん。」

 「9年前になるか?貴族街がドラゴンに襲われたことは?」

 「知ってます。」

 「うん。あの時、勇者2号が亡くなってるんだ。」


 これは、初めて語る事実。

 北見陽太の最期について。


 「2号は当時19歳で、真面目な男で、大真面目に勇者してたよ。」


 辺境で魔物の討伐をしていたわたしが転移した時、陽太はすでに事切れていた。

 ドラゴンは、勇者プラスなら楽勝でも、通常の勇者なら4、5人で掛からねばならない、そんな魔物だ。

 彼は必死で戦ったと理解出来た。


 「わたしには『死を覆す者』と言うスキルがある。」

 「「「え?」」」

 「年に1回だけ、明らかに死んだ者でも生き返らせる。特大のチートで、でも。」

 「……」

 「この時は直前に使ってしまっていたんだ。」


 ゴブリンの氾濫で、母を亡くした子が泣いていた。

 使わない、なんてこと出来なかった。


 「そうやって2号は逝ってしまった。悪趣味だなぁと思ったよ。」


 以来スキルは、早い者勝ち、それを絶対のルールとして使っている。

 目の前で逝ってしまう誰かを、救えなくとも後悔しない。

 でも、それが悪人だって、救えるなら救う。


 じゃないと、心が壊れる。


 「多分超常の何かが、朔夜達の意図を組んだんだ。今は魔石で張ることにした結界に何かあった場合、リーシャの存在に苦しむように、わざとそうしたとしか思えない。」


 わたしのまとめに、朔夜が吠える。


 「なんだよ、それ‼️僕はリーシャを助けたかった‼️それだけなのに⁉️」


 おかしな運命に巻き込んだ。

 悔し過ぎる。


 「助けない方が良かったのか⁉️手を差し伸べない方が⁉️

 そんなのって‼️」


 慟哭する青年の耳に、初めて聞けた、高い、幼女特有の舌ったらずな声が響いた。


 「サクヤ君‼️」、と。


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