第38話 回る運命

 「リーシャ。リーシャ。」


 お母さんが呼んでいる。

 今すぐ起きなければならないのに、どうしても瞼が開かなかった。


 起きなくちゃ。

 起きなくちゃ。


 久しぶりに会えるんだ。

 起きなくちゃ。


 そう思ってしまってから、あたしは急に思い出す。


 ‼


 そうだった。

 お父さんとお母さんは死んだんだ。

 妹も犬のお化けに食い殺された。


 住んでいた村もボロボロで、だからサクヤ君に手を引かれ、城下までたどり着いたんだ。


 じゃあ、今呼んでいるのは誰?


 「‼」


 ハッとして目を開けると、

 「良かった。起きたね」と、初めて見る顔が見下ろしていた。


 女の人だ。

 サクヤ君達みたいな黒髪じゃない。

 キラキラの金髪だから、この国の人かもしれない。


 ……?

 初めて?


 戸惑いが顔に出たのか、女の人は笑って、

 「昨日会ってるよ。覚えてる?」と訊いた。


 そう言えば、苦しくて苦しくて仕方が無かった。

 夢うつつで見た、お医者さんらしき女の人だ。


 『お医者さん』と答えようとし、けれど相変わらず言葉は出ない。


 あれ?

 昨日はあんなに苦しかった。

 今は少しだるいだけで、息が吸いにくいわけでも、咳が出るわけでもない。

 あれ?


 「うん、覚えてるみたいだね」と、女の人は笑い、

 「これ。少しは食べれる?」と、オートミールのような、ドロッとした真っ白いものの入った皿を差し出す。


 戸惑っていると、スプーンですくって差し出してくる。


 反射的に口に入れると、美味しかった。

 麦じゃない、けれど軟らかく煮た穀物で、甘い味付けがされている。


 「はい。」

 

 目を見開くあたしに、彼女は皿とスプーンを握らせる。

 いつぶりの食事だろうか?

 喉を食物が通る、甘美な感覚を思い出し、必死で食べる。


 「よし、リーシャ。じゃあ、食べながら聞いてね。」


 彼女が言うには、昨日来たお医者様の女性と、その助手である彼女も、2人共サクヤ君達と同じ、召喚勇者らしい。

 彼女はイチゴさん、お医者さんはチカさんだ。

 イチゴさんは、物の本質を見抜く鑑定眼を持っていて、あたしに魔力があると言う。


 魔力?

 そんなものは知らない。


 王宮魔導師以上らしい、そんな力があるのなら、村を滅ぼさせはしなかった。

 お父さんもお母さんも、妹だった守り抜けた。


 「そんな訳だから、リーシャのこと、鑑定していいかな?」


 勝手に見てくれていいのに、それでも確認してくれたのは、プライバシーの侵害だから、だって。


 ……

 何を言っているのかわからないよ。


 曖昧にうなずくあたしに、

 「じゃあ、見るね」と、イチゴさんは目に力を込める。


 すぐに顔色が変わり、

 「おい‼来てくれ、千夏‼朔夜君‼」と、叫んだ。


 




 

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