第37話 米は元気の素

 「何であの子に、魔力なんてあるんだよ⁉️」


 リーシャには魔力がある。

 それも召喚勇者に匹敵する、巨大な魔力が。


 その事実へ返ったのは、予想通りの激しい反応だった。


 「まあ、落ち着いて、朔夜。」

 なだめると、

 「あ……」

 顔を赤らめ俯いた。


 召喚勇者18号、山田朔夜はいろいろ聡い。


 本人は、

 『優秀な兄弟に挟まれた、忘れられた次男』と言うが、実際地頭はかなりいい。

 空気も読むし思慮深かった。


 「そこら辺を説明するから、まあ座って。」


 促して、全員で着座すると、

 「んじゃ、メシ食いながらにしない⁉️」と、いちごがアイテムボックスから米袋を取り出した。


 おい‼️

 いちごさんや。

 絶叫案件だ。


 「うぇっ⁉️」

 「日本の米⁉️しかも10キロ⁉️」

 「え⁉️なんで⁉️」


 案の定ワタワタになった男どもに、頭が痛い。

 騒ぎを作った当人は、

 「やっぱ病人にはお粥じゃーん」と、すまし顔だ。


 「いちご、説明していいの?」


 勇者マイナスにも触れなければならない。

 一応確認すると、

 「頼む」とにっこり。


 面倒な部分を丸投げされたらしい……

 

 「ああ、面倒だから簡単に言うぞ。」

 「面倒、言うなし。」

 「やかましいわ。

 いちごは、あんた達が結界を作り上げた頃召喚された、最後の勇者ね。」

 「あ……」

 「はい。」

 「で、大きな魔石は使えないし、家畜オークの魔石をかき集めた質より量の召喚だから、マイナス勇者なんだよ。」

 「え?」


 引きこもりの17号、わたしや朔夜のプラス勇者の件が共有されて、召喚勇者にプラスマイナスがあることは、みんなの知るところとなっている。


 「で、だからいちごは魔法とかはからっきしだけど、食料召喚って『なんだろう?』な能力と、」

 「なんだろう?って言うなし。」

 「万物鑑定ってふざけたチートを持ってるよ。」


 「え⁉️」

 「鑑定⁉️」

 「マジで⁉️」

 

 声を上げる3人と、自覚無し、首をかしげるいちご。


 「鑑定自体も珍しい能力だけど、いちごの場合『万物鑑定』だから。」

 「?

 なんか違うの?」

 「あんた、召喚直後わたしを鑑定したよね?」

 「ああ、あれは悪かったよ。プライバシーの侵害だ。」

 「まあ、それはいいけど、普通は出来ないから、格上の鑑定。」


 鑑定は、自分より強いものには使えない。

 弾かれるのが常識だ。


 いちごの鑑定は誰にでも通じる。

 ある意味チートだった。


 「で、この鑑定で、リーシャを見せて欲しいんだ。何かヒントがあるかもしれないし。」


 言い終わって彼らを見ると、朔夜は大きく頷いて、健介と正直は……

 うん、米に気を取られているね。


 「はぁ。」

 思わずため息。


 「じゃ、先に昼御飯にしようか。」


 「「「うおぉぉぉっ‼️」」」


 盛り上がった。


 「じゃ、誰かご飯炊けない?こう言うの、私も千夏も壊滅的でさ。」


 一緒にすんな‼️

 事実だけれど……


 「ああ、じゃあ僕が」と手を上げたのは、リーシャ親衛隊で1番年長、社会人だったらしい正直だ。

 

 「1人暮らしだったし、自炊してた。」

 「なら、これで私達5人で食えるくらいの飯と、リーシャにはお粥を。」

 「わかりました。」

 「ああ。雑炊みたいに具だくさんは駄目だよ。普通の、何も入っていないやつ。

 味付けは……

 砂糖か塩か……これは、食べたこと無いだろうし、駄目か?」


 いちごが出したのは、ペットボトル入りの大容量の醤油。


 「うわっ‼️醤油もあるの⁉️」

 食いついたのは正直の方で、勢いが良過ぎて、さすがのいちごも引いている。


 「え?使いたいならあげるけど?」

 「マジですか⁉️ありがとうございます‼️」


 待つことしばし。


 まっ茶色の炊き込みご飯と、真っ白のお粥が現れる。


 「リーちゃんのは甘く味付けしました。甘いの好きですし。」

 「まあ、糖質はすぐエネルギーになるからいいけど。

 この茶色は?」

 「さくらご飯。地元のですよ。醤油の炊き込みご飯。」


 正直、静岡県人か?


 「西部だと、これに油揚とかコーンを入れてこぎつねご飯になるんですが、僕はこのシンプルなのが好きです。」


 いや、豆知識はいいよ‼️


 醤油の炊き込みご飯は、シンプルながら美味しかった。

 わたしといちごは、この頃は毎日米を食べていたので1杯で十分だったが、朔夜初め男性陣は抱え込むように食べていた。


 「そんなにがっつかないでも、必要ならまだ何袋か置いていくから。」

 

 そう言ういちごと目で会話。


 彼女はお粥を持って立ち上がる。


 リーシャの元へ、と。

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