第36話 不穏

 「来たよ。」

 「ちーっす。ペーパードクターとペーパーナースだよ🎵」


 何か話すことが無ければ基本寡黙な千夏さんと、常時テンション高めのいちごさん。


 2人が再訪したのは、翌日の10時過ぎだった。


 ああ。

 アルスハイドは日本と同じ、1日が24時間。


 元々は1日を8つに分けて、かなり大雑把な時間感覚で過ごしていたらしいが、召喚勇者の使っていた24時間制に移行した。


 その方が使い勝手が良かった訳だが、良くも悪くも、日本の影響を大きく受けた国である。


 「リーシャは?」

 「昨日より苦しくは無さそうです。熱も下がっているようですし。」

 「薬は?」

 「朝起こして飲ませました。」

 「ヒール無しで起きれた?」

 「なんとか。」

 「食事は?」

 「それはまだ……」

 「うん。」


 2人はリーシャのベッドに歩み寄り、状態を確かめる。


 「呼吸は……だいぶ落ち着いたね?」

 「熱も下がっているし。」

 「うん。」


 脈拍を確かめたり、額に触れたりする2人だが、日本で見ていた医者と看護師と、大きく違うことがある。


 あるべきものが無い。


 そう、聴診器だ。


 自分でもそう感じているのだろう。

 2人共が、時折胸元を探すような手が空を切る。


 だから出した。


 「あの、これ。」


 昨夜の内に作っていた聴診器だ。


 「え?」

 「なんで?」


 僕のスキル『構造把握』は、必要な構造物の作り方を知るスキルだが、実はもう1つある。

 

 条件は、材料が揃っていること。

 揃ってさえいれば、フルオートで必要なものを作り出せる。


 これは、家にある予備のナイフと、3人分のパンツのゴムを『構造把握』した、完全手製の聴診器だった。

 ゴムも材質を変えて、音を響かせるようにツルツルのラバーを管にしている。


 「うぉ⁉️スゲえ‼️」と、いちごさんは首から聴診器をかけ、いかにもナース風にポージング、

 「うん、大丈夫だ」と、千夏さんはリーシャの呼吸音を確認した。


 「抗生物質で正解だったよ。念のため、今日明日は薬を続けて。」


 千夏さんのまとめにホッとしていると、

 「んじゃ、後は」と、いちごさんがアイテムボックスから寝具を出した。


 「饅頭からパチッて来たから、安心して‼️」

 「饅頭?」

 「大福のことだよ。」

 「大福って?」


 ……

 ああ‼️ラディッシュ王か⁉️


 何日も寝込んでいたのなら、寝具が駄目になる事態は想像できる。

 男の自分達ではフォロー出来ない案件であり……


 いちごさんは僕達を部屋から追い出すと、リーシャの体を清め、こちらもアイテムボックスで持ってきていたらしい、新品の服を着せる。

 新しい寝具に寝かせれば、雑な貧乏家の小娘が、いっぺんにお姫様になった。


 台所のテーブルで待っていた僕らに、

 「終わったよ」と、いちごさんが言う。


 「ありがとうございます。」

 「いや、いいけどさ。

 あ、そう言えば君達、魔力遮断してない?」


 そう言えば、千夏さんといちごさんにはもう住みかがバレている。

 なら、万一に備え、感知系に捕まらないためにも魔力は切っておくべきだと、3人で話し合って今朝決めた。


 「ああ、スイマセン。万一のために。」


 僕の言葉に、いちごさんは苦笑い。


 静かに爆弾発言をした。


 「君らだけ魔力を隠しても意味ないよ。」

 「え?」

 「リーシャちゃん、魔力持ってる。」

 「は?」

 「しかも勇者と同じくらい大きい。」


 ……

  なんだって?

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