第35話 アルスハイドのラプンツェル

 翌朝から、生活パターンが決まってきたので、私は日課だったジョギングを再開する。


 体を動かすことは好きだ。

 格闘家時代はもちろん、慣れない頭脳労働で死にそうだった看護大時代も、ジョギングだけは続けてきた。


 皇居の外周5キロと言うが、アルスハイド王宮の外周は、それより少し広い、7キロ程度だろうか?


 走り出して気付く。


 ヤバい、これ。


 ジョギング程度じゃまったく疲れん‼️


 マイナスとは言え、召喚勇者の力、スゴ過ぎる件。


 息が全く弾んでこない。


 世界の壁のお陰で、体力関係の数値?も爆上がりしたことは分かっていたが、それにしてもスゴい。


 仕方がないので、8割くらいの、準全力疾走で1周。


 いやいや、出来てしまったのがスゴい。


 私は陸上選手ではないし、10分ぐらいしかかかっていない。


 これって、世界記録、ぶっちぎってない?


 ……


 ま、まあ、世界陸上についての考察は棚上げする。


 体は鍛えておいて、損はない。


 私はマイナス勇者なのだ。


 朔夜達が警戒する、15号と16号の存在。

 問答無用の馬鹿者が、同じ召喚勇者にいるのは、ヤバい。


 以前覗いてしまった千夏のステータスに比べて、私は明らかに劣っている。

 魔法全般使えないし……


 千夏は勇者プラスだが、恐らく普通の勇者にも敵わない。


 小競り合いになった時、せめて自分くらい守りたい。

 出来れば性格上、周りの人だって守りたいから、やり方を考えつつ、体を鍛えるしかない。


 さすがに吹き出す汗を拭っていると、頭の中に声が響く。

 「『身体強化』を獲得しました。」


 ラッキー❤️


 有り余る魔力の有効利用が、1つ可能になった件。


 その後たっぷり時間をかけ、ストレッチをしながらクールダウン。


 私は本日の第1目標、王宮内の大きな光を探し始める。


 召喚勇者17号の、引きこもり部屋だ。


 それは王宮の敷地のはじっこにあり、この場所においては小さめだが、普通に家族5人が住めるくらいの戸建て住宅だ。


 3DKの、ラプンツェルと言えよう。


 この国、アルスハイド王国は、自国の防衛のために異世界から勇者を呼び出すと言う、呼ばれる側からすればあんまりな、身勝手な行動をしているわりに、待遇は良い。


 ラノベだと、

 『役に立たないと追放』し、

 『騙して戦争の道具』とし、

 『魔王は倒したから後はいらない‼️』と、斬りかかってくる。


 アルスハイドは『呼び出した責任』だけは取ってくれるようで、引きこもりの17号も見捨てない。


 あれ、絶対バス・トイレ付だよな。

 

 優雅な引きこもり生活だなぁ。


 でも、食べ物はどうしてるんだろう?


 疑問に思っていると、向こうから近付いて来る人物に見覚えがある。


 「あれ?料理長じゃんか⁉️」

 「おはようございます。いちごさん。」


 料理長はトレーを持っていた。


 引きこもり、飯付。


 いいな、17号。


 でも、なんで引きこもっているのだろう?


 17号も私と同じ、マイナス勇者と聞いている。


 だからなのか?


 ふと覗いたトレーの上は、

 『柔らかい丸パン2個に、スクランブルエッグにウインナー、サラダにミルク』もついている。

 なかなか旨そう。


 でも‼️


 「今晩の夕食、私達に差し入れさせてよ。」

 言い出すと、何をするか想像が出来たのだろう。

 「わかりました」

 と、料理長が笑った。

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