第34話 王宮の闇

 大崎いちごと言う人物は、雑に見せて勘が良い。

 よく他人を見ているし、暴走するようで暴走していない。


 つまりいちごは、今日わたしが18号を見逃したことくらい、とっくに気付いているだろう。


 説明が必要だろうと思ったのだが、

 「いや、いいよ。千夏がその方がいいって思ったんなら」と、至極あっさりしたものだった。


 「あの子が結界システムを作ったのなら、高校生くらいだし、そんなだいそれた知識が初めからあるとも思えない。

 なら多分、スキルだろうし、そう言う超常の力が絡むなら、帰りの道も構築出来るのは確定で、それなら急ぐ必要は無いよ。」


 ……


 いや、本当に最近の子の『異世界』への親和性の高さが……


 「いちごは早く帰りたいんじゃないの?」

 「うん、まあそうだけど。」

 「なら、なんで?」

 「私の感情で誰かに無理をさせるのは嫌だし。

 それに……」

 「?」

 「私が帰りたい理由は、母親だけだ。あの人は多少の誤差なら余裕で待つよ。」


 そう言えば、母子家庭だと言っていた。

 目を悪くするまでは格闘家で、母親なら心配で仕方がないだろう。

 その後は看護大学に4年間。

 いちごに多少の貯えがあっても、全部まかなえたとは思えない。

 金銭的負担も相当だろう。


 それを全部待ち続けた母の強さを、いちごは信頼しているようだ。


 対して、

 『まあ、家なら兄貴が継いだだろうし、ま、いいか』と今1つ投げやりな自分が、少しばかり寂しく思えた。


 「そう言えば、さっき気が付いたんだけど?」と、いちごが話題を変える。


 「なに?」

 「魔力感知をどこまで広く出来るか、試してみたんだ。もし国土すべてに伸ばせるなら、勇者探しとか一発だし。」

 「ああ、なるほど。で、どこまで?」

 「まあ実際は、城下町を網羅出来たくらいだけどさ。」

 「うん?」

 「わかったことが3つ‼」

 「へ?」

 「まず朗報‼とりあえず15号と16号らしき人はいないよ、今は。」


 薄く伸ばした魔力に2人組は掛かってこない。


 「だから彼らは安心していいよ」と、いちごは笑った。


 「って言うか、朔夜って勇者プラスでしょ?その気になればヤンキー君達より強いんじゃないか?」

 「だろうけど、基本戦いを好まない子だからね。」

 「ああ。」



 2つ目は、リーシャに魔力がある点だ。

 感知したところ、わたし達召喚勇者と大差なかったらしい。


 朔夜君達に保護されていて、本当に良かった。


 そして最後は?


 「市場の中にある反応が、トイレットペーパー兄さんだろ?」

 「うん、3号だね。」

 「あと、王宮から南東の方の大きめの建物内に1人いる。」

 「多分7号だね。建物は図書館で、あの子は知識の虫だから。」

 「なるほど。でも、あと1人。」

 「?」


 「王宮の中……って言うか、堀に囲まれた中にもう1つある。」


 そう。

 言われなければ忘れ去ってしまっていた。


 彼女は『人の魔力』を生贄にした、最後の召喚者。


 「ああ」と、ため息になる。


 「引き込もり勇者、17号だよ。」



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