第32話 元プロだから分かること

 「うわっ‼️感知系かよ⁉️」

 

 ついつい、口から出てしまった。

 

 しかも、『魔力感知』。


 『気配感知』で分からなかったから、『魔力感知』に切り替えたらしいが……


 召喚勇者である以上、超特大と特大程度の差はあれど、皆膨大な魔力を持っている。

 魔力をきっかけにされれば逃げ切れない。


 万が一、15号と16号が同じスキルを保有していたら……


 嫌な想像に顔をしかめた僕に、

 「ま、ダイジョブじゃないの?」と言ったのは、千夏さん。


 「この後天的に取れるスキルだけどさ。」

 「?」

 「望めば取れる、とかじゃなくて、日本での経験が関係していると思う。」


 ?

 どういうこと?


 「そう言う意味では、君らは『魔力遮断』もいけそうだよね」と、いちごさんが言った。


 ???


 「さっき見せた『薬品合成』だけど。」

 千夏さんが今一度、手を合わせる仕草をする。


 ……


 思い出した。

 何もないところから、ボロボロ薬を生んでいた。


 「わたしの『薬品合成』は、わたしの医師免許に対してだと思う。いちごも『薬品合成マイナス』を持ってるけど。」

 「マイナス言うなし。」

 「いちごの看護師免許に対してだと思うよ。」


 ……

 「えーっ⁉️医者ぁ⁉️」

 「看護師⁉️」

 「マジかぁ⁉️」


 いやいや、驚き過ぎた。


 いちごさんの、金髪ヤンキーナースみたいな人は、わりといる。

 でも、千夏さん、医者って?

 

 え⁉️

 10年前の召喚時、千夏さん、すでに医者だったの⁉️

 20代半ば⁉️

 え⁉️

 今いくつなの⁉️


 壮絶に混乱したが、それを真正面から訊けるほど、僕達も世間知らずでは無いのだ。


 「だから逆に、それなりの裏付けが無ければスキルは取れないと思う。」 


 千夏さんのまとめに納得する。


 つまり、日本で苛められてた僕達は、目立たないよう努めていた。

 だから、『気配遮断』なんだ。


 ふと思い付いて、頭の中でイメージする。

 魔力の元を閉めるような……


 「あ?」

 「取れた‼️」

 「僕も⁉️」


 僕達は『魔力遮断』を手に入れた。


 「探すの面倒だから、遮断しないでおいてよ。」

 いちごさんが笑う。


 「まあ、そんな訳で、感知系持ってるのはいちごだけど、それは看護師になる前の、格闘技をやってた経験からだから。」

 「は?」

 「格闘技⁉️」

 「うん。目をやって引退した。プロの総合格闘技の選手。

 試合で相手の攻撃を、肌感覚で感じてた。」


 いや、いちごさん、波乱万丈が過ぎる。

 更に異世界召喚だし。


 いや、でも?


 「15号と16号も喧嘩屋だよ?」


 彼らにも可能性があるかと問うと、

 「はん」と、鼻で笑った。


 「子供の喧嘩と、その道のプロで戦うのは雲泥の差だよ。」


 つまり、絶対彼らに『感知系』はあり得ないのだ。


 僕達を安心させた後、2人は来訪の目的を告げた。


 ……

 なるほど。


 僕達が王国に結界を張った。

 魔物の脅威は取り払われ、召喚勇者はその役目を終えた。

 だから、希望者は元の世界に帰してやりたい、気持ちは分かる。


 千夏さんは、僕の『構造把握』に気付いている。

 実際特殊なスキルが無ければ、結界システムなど作りようがない。


 いくら僕が、元の世界で居場所を無くしていても……


 もちろん、考えたことはある、帰り方を。


 けれど……


 これは結構危険と言うか、代償が……


 言い淀むと、

 「ま、いつかその気になったら教えてよ」と、意外にも千夏さんの方が棚上げにしてくれた。


 「まあ、リーシャちゃん?だっけ?

 抗生物質で正解か、経過観察は必要だから。

 しばらく毎日来るからさ。」

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