第25話 留守番勇者の日常

 「ねえ、千夏。」

 急にいちごさんが言い出した。


 「ん?」

 「今の15号と16号の話だけど、馬鹿さから考えると、あんたも襲われたことあるんじゃない?」


 いちごさんは元・総合格闘家。

 武闘派ゆえの勘だろうか。


 うちには優しいいい人だけど。


 「よくわかったな」と、千夏さんは苦笑い。


 「初代勇者だけ有名でずるい‼俺達の方が強いんだ‼って、物陰から闇討ちされたよ。」

 「『物陰から』って?」

 「その段階から、もう『闇討ち』なんだ。」

 「しかも『背後から』だった。」

 「馬鹿だな、そいつら。」

 「ま、だから軽くポコッたら回復魔法が使えるってわかったんで、」


 『ポコッた』らしい、ボコらずに。

 

 「ん?鑑定しなかったのか?」

 「んな魔法持ってるの、あんたくらいだよ。まあ、目の前で回復したし、じゃ、ダイジョブかと思って。」

 「思って?」

 「ボコボコにして移動魔法ですっ飛ばしてやった。」


 移動魔法も、今のところ千夏さんしか持っていないらしく、もちろんうちにも、いちごさんにもない。

 行ったことがある場所ならどこにでも、いわゆるテレポート出来るらしい。


 本人でも、他人でも。


 「前に戦ったことがある、魔の森の奥にあるゴブリン村に放り込んでやった。」


 ボコボコにされて、半死半生で、敵地に投げ込まれるって、うわーっ。


 千夏さんもなかなかに武闘派だ。


 医療従事者系勇者、脳筋な件。


 「以来、あいつらわたしから逃げ回っている」と、肩をすくめた。


 それからは、朝ご飯は3人で一緒に食べて、2人は城下町に出かける。

 

 うちは王宮で、ハイの世話をしつつ洗濯したり、夕食の準備をする。


 朝はご飯がいい‼っていちごさんが騒ぐから、その上『食料召喚』で味付け海苔とか、ふりかけとか、ご飯の友を出しまくってくれた。


 あとは味噌汁くらいでいい。


 2人共お替りまでしてたくさん食べて、

 「行ってきまーす。」

 「行ってくんね、世奈、ハイ」と、手を振って町へ向かう。


 この世界はすごい。

 

 いちごさんなら、

 『さすが10年前から召喚勇者のいる国‼』って絶対言う。


 日本の全自動洗濯機と同じ能力を持つ、魔力を動力にする洗濯機があった。


 ハイのおむつは食料ではないので(←妙な言い方)、いちごさんも出せなかったから布おむつだ。

 汚れものを洗い、日の下に干した。


 昼食は2人は町で、うちは王宮の食堂で食べる。


 食堂からの帰りに、マリウスさんにその日の晩の食材を見せてもらう。


 今晩は、根菜多数とソーセージで、ポトフ。

 メインは鶏を焼くのかな?


 3人分……と言うか、うちを含めて結構食べる方なので、5人分ほど材料で貰う。

 あとは、オーク肉を少し、と。


 ポトフの野菜とオーク肉で豚汁を、ソーセージは焼いて、鶏はマヨネーズと醤油で照り焼き味にしてみよう。


 うちは夕飯の支度をしつつ、ハイの面倒を見つつ、帰りを待つ。


 あ、その前に‼


 スキル『鉄壁』を発動すると、部屋の周囲が見えない壁に囲まれた。


 この力、許可された人間以外通り抜けられない透明な壁を作る。


 千夏さん、いちごさんはもちろん、王宮のメイドの人も騎士の人も、料理長はじめコックさんも通り抜けられる。


 たった1人を除いて。


 「あれ?あれ?開かない。なんで?」


 恒例声が聞こえてきた。


 暇つぶしの興味本位で特攻をかけてくる王様(千夏さんだと『大福』、いちごさんだと『饅頭』)を防ぎつつ。


 1日を過ごすのだ。

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