第23話 召喚勇者の生きる道
結局何とかなってしまった。
召喚4日目に、勇者として辺境に向かう。
西の辺境の村が、魔物の集団に襲われたらしい。
まだ馬に乗れない僕は騎士の後ろに同乗し、半日程走り続けて目的地へ着く。
アルスハイド王国とは……
僕らの感覚で言う、『県』程度の大きさかもしれない。
それでも、『魔物が出た』→『王宮に連絡(半日馬で走る)』→『王宮から応援が向かう(半日馬で走る)』で、都合1日近くロスしている。
僕が着いた時には村はほぼ壊滅し、人々が住んでいただろう家々は倒れ、崩れ、あちこちに人が倒れていた。
その姿は……
正視出来ない、食い荒らされており、魔物らしき黒い影が暴れまわる。
100頭を超えるコボルトだった。
2メートル越えの、2足歩行の犬の化け物。
通常知能はあまり高くない魔物らしいが、この時は1頭だけ3メートル近いリーダーがいて、これが群れを指揮していた。
着いた途端の乱戦にオドオドする僕に、3頭ほどが次々と襲いかかる。
「うわっ‼」
思わず振ったのは千夏さんに貰った短剣(聖剣のおまけらしいが)。
物理の法則を無視して放たれた衝撃波に、3頭まとめて両断される。
ギャウン‼と断末魔の悲鳴。
いや、3連星一瞬かよ?
どうやら僕は、本当に強くなっているらしい。
その後、あちこちから召喚勇者達が集まってきて、コボルト達を一掃した。
コボルトリーダーを真っ二つにしたとき、
『僕って強いじゃん』と誤解しかけた。
調子に乗りかけた僕を止めたのは、地面に座り込んだまま夕空を見ていた、うつろな目の少女。
日本で言う、小学校低学年くらいか?
村に住んでいた彼女は、魔物の強襲で全てを失った。
父も母も魔物に食われ、彼女の下の乳児だった妹は、一瞬で噛み砕かれたらしい。
ねえ、これはおかしい。
「やったなぁ。」
「今回も退治したぜ。」
満足げに騒ぐ他の召喚勇者達の声を聞きながら、これでは駄目だと強く思う。
襲われてから助けに行っても、間に合わないのだ。
なら、どうする?
ラノベなら、こんな時は結界だ。
王国を覆うような、魔物を防ぐ巨大な結界を作り出す。
でも、作り方は?
小説にも漫画にも、設計図や理論的な説明はないぞ。
ただ、そう思った瞬間、大量の情報が頭の中に流れ込んだ。
僕はその時初めて、自分のステータスの意味を知る。
……ヤマダ・サクヤ(17)……
職業 勇者(プラス)
魔力 SSS
体力 A
力 A
知力 SSS
魔法 ステータス
全属性攻撃魔法
全属性防御魔法
回復魔法
アイテムボックス
生活魔法
スキル 構造把握
称号 電脳賢者
僕は馬鹿だ。
勉強は苦手なのに、なんで?と不思議だった。
僕自身は説明出来ない状態ながら、必要とする魔道具の構造を把握し、作り出すことが出来る能力だ。
だから作った。
王国を守る結界を作ろう。
もう誰も悲しまないように、安心して暮らしていけるように。
僕の後に召喚された、伊藤健介(イトウケンスケ)さんと、高橋正直(タカハシマサナオ)さんも協力してくれた。
健介さんは大学生で、ゼミの教授に嫌われて散々だったって。
正直さんは会社員で、虐められて大変だったって。
うーん、幾つになっても希望がない世界だな。
僕らは似た者同士だから、気が合って協力出来た。
王宮近くに、便宜上教会と言うことにして、魔物除けの結界を発する建物を作る。
聖女システムは可哀そうだし、魔石で動くようにした。
最後に魔石をセットする時……
少しだけ悩んだ。
これを動かせば、王国の人は気楽に暮らせる。急に魔物に襲われることも無く、のんびり生を謳歌できる。
けれどそれは、自分も含めて勇者という存在の意義を、失わせるものでもある。
必要ない存在になる?
在原君を少しだけ思い出す。
魔物相手に蹂躙し、自らの力に酔った勇者もいる。
そうだ。
僕や、同じように気弱だった人を蹂躙した、在原君と大差が無い。
その彼らの居場所がなくなる?
迷っても、意味がない。
勇者の在り方として間違っている。
僕は魔石をセットした。
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