第13話 勇者30号の王宮探訪②

 「娘‼どこから入り込んだ‼」

 

 駆けつけて来た騎士は殺る気満々、腰に付けた剣を抜こうとしている。


 問答無用か、都合がいいな。


 実は、今現在の己の力を試してみたかった、私です。


 召喚勇者は、世界の壁を越える時神の加護を、云々。


 マイナスとは言え加護を得ているらしい。

 素の力も上がっている筈(もげなかったけど)。

 なら‼


 試すしかないじゃん、と言うわけだ。


 饅頭の腕はもげなかったし、まあ、そこそこ手加減すれば死なないだろう。

 攻撃してくる方が悪いんだしね。


 こちとら元・総合格闘家。

 戦いならお手の物だ。


 さすがに王宮内を汚すことを躊躇ったのか、結局剣でなく掴みかかってきた騎士を、ひらりと躱す。


 お?

 今までよりかなり動きがスムーズだぞ。

 世界がスローモーションに見えるから、私の動きが速いのだろう。


 ん?

 倍速くらいか?


 なら。


 半分ほどに加減した。

 騎士にボディーブローを入れる。


 「ぐふっ‼」

 

 驚いた。

 100キロ以上ありそうな騎士様が、10メートル以上宙を舞った。


 うん、交通事故みたい。


 騎士は数回バウンドして、そのまま気絶してしまった。


 え?

 鍛えてそうな騎士でもこうなるって、考えたら饅頭、丈夫だなぁ。

 ああ、多分、初代勇者時代から突っ込み食らい続けて、恐らく無駄に鍛えられたのだろう。


 「何事だ‼」

 「うわぁ‼ウォルターが‼」

 「勇者様‼」


 物音に駆け付けたお仲間は、私の事を知っていたようだ。


 「すいません、すいません‼」

 「こいつ、知らなかったみたいで‼すいません‼」

 「許してやって下さい‼」と、気絶したウォルター君を引きずって逃げて行った。


 どうもこの世界では、勇者は恐れられている。

 けれど、それは『嫌われている』では無く、その大き過ぎる力を『恐れている』だけだ。


 矛盾するようだが、逃げ腰で気さくに接してくる。

 初代の千夏以来、歴代勇者がいい関係を築いているのだろう。


 ふーん。


 王宮内の食堂に行くと、騎士やらメイドやらが食事をしていた。

 大広間に、椅子とテーブルのある、フードコートタイプ。

 食事もセルフで厨房からもらうバイキングスタイルだ。


 ここで今1度、さすが、10年前から召喚勇者のいる国‼


 異世界名物のガジガジ固パンじゃなく、柔らかい、けれど小麦の味を感じる素朴なパン。

 トマトシチューも旨いし、副菜についていた揚げ芋(小芋をそのまま油で揚げて、塩味をつけ、バターを絡めた感じ)も旨かった。


 ただ、誰も食べていないし選択肢にも無かったから、米は無いのだと思う。

 残念だ。


 帰り道に29号の部屋に寄る。


 「どう?」と聞くと、

 「全身筋肉痛でバキバキ」と返った。


 やっぱ若いな、この子。

 人懐っこい笑顔を見せる。


 「ん。まあ、ゆっくり休め。何かあったら隣の部屋にいるから」と、別れた。


 こうしてマイナス勇者の異世界生活が始まったのだ。 

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