第5話 召喚勇者1号 幸田千夏

 運命の日、わたし……幸田千夏は大学にいた。


 ……

 いや、学生じゃない。

 医師の国家試験に合格した後、勤務医にはならず、研究者を志し大学に残った。

 遺伝子のなんちゃらを解き明かし、人類に貢献したいと思っていた?


 表現がやたらフワッとしているのは、いろいろと忘れてしまったから。

 情熱も夢も、全て押し流してしまうくらい、続く10年が濃かったから。


 ともあれ、あの頃は寝食を忘れ、頑張っていたっけ。


 「あー、もう無理‼️」


 深夜、助教の肩書きが付きやっと貰えた研究室で、空腹と眠気の限界から栄養ドリンクをグイッとあおった瞬間‼️


 召喚‼️


 「ムカついたわ、あれは。」


 いきなり景色が変わったと思ったら、目の前に大福餅がいた。

 

 「よく来た、勇者よ‼️」

 「は?」

 「早速我がアルスハイドのために戦ってくれ‼️」


 「イラッとして、持ってた栄養ドリンクのビン、全力で投げつけてやった。」


 異世界からの召喚者は、世界の壁を越える時に神の加護を得る。

 素の体力も、魔法力も、常人を遥かに凌駕して、更に有用なスキルをいくつか得る。


 その効果は、各備品にも有効なようだ。


 わたしと共に世界を越えた栄養ドリンクの空き瓶は、

 『象が踏んでも』どころか、どうやっても壊せない奇跡のガラス瓶と化し、大福の頬を掠めて召喚施設の壁に突き刺さった‼️


 「饅頭、召喚の度に死にかけてない?」

 「あんたには腕極められていたしね。」

 「ああ……」

 「3号の時は……ああ、この人がトイレでお尻出した途端に召喚された男ね。」

 「うん。」

 「何故か無くならない、無限トイレットペーパー、口に詰め込まれてた。」

 「うわっ、って言うか、ペーパー切れてたんだ。タイミング悪い人だな、3号は。」


 ともあれ、帰る方法は分からない。


 最近の召喚であればあるほど、現在進行形でその手の話が流行っているのか、異世界のイメージが明確で助かる。


 でも、わたしはそこまで詳しくもなく、受け入れに時間がかかった。

 もやもやして、イライラするから、八つ当たりぎみに魔物を狩った。


 「もうね、スゴいよ、召喚勇者の力。」

 「……スゴいのか?」

 「ドラゴンの首、魚肉ソーセージを切る感じで。」

 「魚肉ソーセージ?」

 「うん、スパスパ。」


 きっかけは八つ当たりだが、魔物被害に苦しむアルスハイド王国としては、召喚勇者の有用性が証明出来た感じである。


 ただ、立て続けに呼び出す訳にはいかなかった。


 「勇者召喚は、年2回ってことになった。」

 「2回?」

 「うん。勇者召喚には犠牲がつきものでね。」






 夕方6時前後に毎日更新しています。

 同じく朝6時前後に毎日更新、現代ファンタジー『恐竜がパステルカラーで塗られていても、僕達に反論出来る根拠はない』も連載中です。

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