タテの国を描く前に書いたアイデアノート
田中空
第1話 高い塔
人々は年を取るごとに、その塔を登った。
岩だらけの大地に生命の気配はなかった。何もない広大な世界に、一本高い塔が建っていた。誰が建てたのかも分からない。そして、塔は果てしなく天空を目指し、その頂きは誰も見た事はなかった。
直径一キロを超える塔には、人類の全てが暮らしていた。誰が決めたか分からないが、塔には二つのルールがあった。人は年を取るごとに、一つ上の階に登ることが出来るというルール。そしてもう一つは一度登ると二度と階下に戻る事は出来ないというルールだった。人々は一年間同じフロアで暮らし、誕生日を迎える事に階上に引っ越した。そして年を取るたび登り続け、命が尽きると墓標を立てた。階下には古(いにしえ)の墓標が果てしなく連なっているはずだったが、誰もそれを確認する事は出来ないし、しようとも思わなかった。
子が生まれると、その子にとってはそのフロアが世界の始まりだった。そして同じように年を取り、階を登り、そのまた子も同じように繰り返した。
こうして、人々はゆっくりと果てしなく登り続けた。戻れない過去の階下、そして未来の階上。
塔はどこまでも続いていた。相変わらず誰も頂きを見た事はなかった。「塔は伸び続けている。人々と共に永遠に」皆はそう思った。
ところがある日、一人の少年が塔から飛び降りた。少年はまるで小さなハエトリグモのような姿で果てしない底に吸い込まれていった。人々は驚いた。気づきもしなかった発想だった。そして誰もかれもが、その衝動を抑えることが出来なくなり、次々に飛び降り始めた。
そしてついには、高い塔は墓標だけとなった。
タテの国を描く前に書いたアイデアノート 田中空 @kuu_tanaka
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