第4話 私たちはシャルロ城に行くことになりました

 ──私、ターニャ・エルロンドの通う学校、「エクセン王国王立ルバリック学園」は、隣国りんこくのシャルロ王国からご招待しょうたいを受けた。


 シャルロ城で、学生懇親会こんしんかいというパーティーが開かれるそうだ。


 これには、先生も全校生徒も全員、驚いていた。


「なぜ、私たちが選ばれたんだろうね? シャルロ王国の国外からは初らしいよ」

「誰かがお金を払ったんじゃないの?」

「そんなバカな。抽選ちゅうせんだって聞いたぜ。クジで当たったんだよ」


 生徒たちは、シャルロ王国に行く途中の馬車の中で、そんな会話をしていた。


 私も、なんだかとても心がおどっていた。


 超大国シャルロ王国の王子様と、お城でお会いできるというのだから。


「シャルロの王子様は、とても素敵な人らしいわ!」


 私の前の座席に座っているグロリアは、声を上げた。


「とにかくハンサムで、平和を愛する、お優しい人らしいのよ。あ~早くお会いしたい」

「グロリア、あなたの彼氏の、ルータス王子はどうなっちゃうのよ」


 グロリアの取り巻き、イザベルはクスクス笑いながら言った。


「ルータスぅ? ふん、最近、浮気しているらしいのよね。他校の生徒にちょっかい出してるのよ。エクセン王国なんて小国でしょ。シャルロは超大国。エクセンのルータス王子とは大違いで、きっと心も大きな素晴らしい方なんだわ~」


 私はその話を聞いて、(やっぱり、ルータスは浮気をしたか)とため息をついた。ルータス王子は、別の馬車に乗っている。


 シャルロ王国の王は、ラーバンス・リベイラという名前の国王。エクセン王国でも有名人だ。すると、息子の王子様もリベイラ姓となる。


(……やっぱり、このかさをくださった方は、シャルロ王国の王子様なのでは?)


 私は念のために持ってきた、あの雨の中、レックス・リベイラさんがくださったかさを握りしめた。


 しかし……同姓ということもありえるが……。


「ねえ!」


 グロリアは突然後ろを振り向いて、私が持っているかさを見て言った。


「あんたの持っているかさ、なにそれ? 古くさいかさねえ。ちょっと貸してごらんなさいよ」

「だ、ダメ!」


 私はかさを後ろに隠した。


「別にこれは何でもない」

「あら、生意気ね。私の命令に逆らったら、どうなるか思い知らせてあげようかしら!」


 グロリアは私をにらみつけた。しかし……。


「グロリア! うるさいぞ!」


 グロリアは同乗している担任のバーバンス先生に注意され、黙ってしまった。



 馬車に乗った、私たちルバリック学園の生徒250名は、国境を通り、シャルロ城へ向かった。


 シャルロ王国に入った私たちは、宿舎で正装に着替え、城に向かうことになった。


「うわあ~」


 生徒たちは、シャルロ城を見上げた。


 エクセン城の数倍は大きい。さすが超大国シャルロの城だ。


 おほりもあるし、ね橋もある。番犬や牛、羊なども敷地内でわれている。


 私は、とっておきの赤いドレスに着替えていた。それでも、グロリアの金色の美しいドレスにはとても敵わなかった。


「よーし、これから城内に入るぞ」


 バーバンス先生の引率いんそつにより、生徒たちはシャルロ城の敷地内に入っていく。


「ねえ」


 グロリアはニヤニヤしながら、私に言った。すごく嫌な予感がした。


 取り巻きのイザベル、ジャネットが私を取り囲んだ。


「今日は、素敵なドレスじゃない? ターニャ」


 ドンッ

 

 グロリアは私の肩を押した。


 ドボン!


 ああ!


 私はおほりの中に、突き飛ばされてしまったのだ。


「キャハハハハ!」


 グロリアたちはお腹を抱えて、おほりの中でずぶぬれの私を、指さして笑っている。


「そのおほりは、泥水どろみずがたんまりよ! もう二度と、パーティー会場に行けないわね!」

「おーい! 何をしている。王族の方たちがお城でお待ちかねだぞ。早く城内へ移動するんだ」


 バーバンス先生が、向こうのほうから声をかけてきた。


「はーい!」


 グロリアたちは甲高い声で返事をして、ゲラゲラ笑いながら城のほうへ行ってしまった。


 私はおきざり……。何とかおほりの中からい上がり、おぼれずにすんだ。


 ああ、でも……。


(これではもう、あのお方──レックスさんに会うことはできないのね。そもそも、レックスさんが、このシャルロ城にいるとは限らないのだし……。ああ、私はバカみたい)


「おや、お嬢さん。どうかなさいましたか?」


 後ろから、聞き覚えのある男性の声がした。


 私が振り返ると、「あっ!」と声を出したのは、男性のほうだった。


「き、君は!」


 私も驚いた。


「この間の! ターニャじゃないか!」


 そこに立っていたのは、あのレックス・リベイラさんだった。


 ああ、何という運命!


 ああ、今日も、ずぶれで会うなんて!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る