第5話 『信念を認め合う者たち』




 静まった教室の端で、ガンディーは隣の席の男に恐る恐る声をかけた。




「……ゴータマ・シッダルタさん、ですね? ああ、やはりそうだ。 あなたは仏教の創設者として、未来の多くの人に影響を与えた偉大なるお方です」


「よく私がシッダルタと分かりましたね。 ……偉大、ですか。 私はただ、苦しみと悲しみから解放される方法を模索し続けていただけですよ」


「私、ガンディーと申します。 私はあなたの仏教について深く学んできましたが、どうしても人間には理解しえない部分があるのです。 もしよければ、お聞きしたい。 仏教の中でも貴方が特に強調している『無我』という考え方がありますよね? あれは一体、どういったものなのでしょうか」


「『無我』とは、自己の放棄。 欲を捨てることです。 自己中心的な考え方を捨て、万物を等しく愛することができるようになるのです」


「そこです、気になるのは。 自己を捨てるというのは……、私たち普通の人間には難しい。 自己犠牲の行動は取ることができますが、自己を捨てることはできないのではないでしょうか……?」


「そうですね、そういう考え方もあります。 ですが、もし耐え忍んだ先で自己を捨てるきることが出来れば、自分自身を含め、周りの人々を幸せにすることができると思いますよ」


「ほう、素晴らしいですな……。 自分自身を含めて幸せにする、ですか。 私もそれを追い求めています。 『非暴力』。 それが私なりに辿り着いた思想ですじゃ」


「成程。 あなたの考え方は、私に似ているのかもしれませんね。 自己を含めて周りの人々を幸せにしようとする。 こんなに素晴らしいことは、那由他の数の方法を考えても損にはなりません。 私たちで、次の人類をより良い存在にしていきましょう、ガンディーさん」


「ええ、ええ! 嬉しいことですじゃ……」




 ゴータマ・シッダールタとガンディーは、ヒトラーとレーニンとは対極的に、それぞれの信念を尊重しながら、互いの考え方を理解することができたようだった。


 しかし、二人の話を聞いていた甲冑を来た女性が、舌打ちをする。

 彼女は顔に火傷傷を残したジャンヌ・ダルクだった。




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