シィラの工房 -錬精術士、ダンジョンからの脱出-
人生
プロローグ「オオカミと赤ずきん」
闇というものがそこに在るのではない。
ただそこに、光がないだけなのだ。
――哲学者にして
――落ちている。
高いところから、底がどこだか分からないような闇のなかへ。
転落するのは初めての経験だった。
しかし、ゴミのように捨てられたのは――
――化け物にさえ、「不要」だと判断されたのは――ロクに手入れもされていない、クセの強い赤毛を伸ばした一人の少女である。
少女の顔は窺えない。闇と、前髪のつくる陰影と、その目を隠す眼帯によって塗り潰されている。ただし、美人でないのは確かだろう。
その身体はやせ細っていて、ロクに食べられそうな肉もない。右足は膝から下がなく、どうやら左足には感覚がないのだろう、古傷だらけで、普段から雑に扱われているようだ。
身にまとっているのは薄汚れたワンピースタイプの布きれ。どこにでも売っている市販品だったのだろうが、ところどころ縫い直した跡があって、もはや元の値段ほどの価値もない。愛着でもあるのか、他に着るものがないのか。その身なりだけでも、少女の身分が分かろうというものだ。
あらゆる種類の欲望に対して、彼女はそれらを満たす価値を持たない――ゆえに、不要だと。
命こそ拾ったが、その身体は廃棄された。
――けれども。
「これは良い拾い物をしたわ――希望も捨てたもんじゃないわね!」
奇妙な声がした。
男の声音で、女のような口調だった。
それが、物語の始まり。
ある者たちから不要と判断された少女と、異端とされた獣人の出会い。
あるいは一つの都市とそこに住む多くの人々の存亡を左右するかもしれない、
―――プロローグ「
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