5 UNOⅠ 葛藤と欲望の姫プレイ
本当にこれで良いのだろうか?いや、良くないだろう。良くない事はわかっているし僕は抗おうと決めたし何ならちゃんとやめようと言った。
が、負けただけだ。小悪魔が強すぎる。勝てない。勝てない気がする。勝てない気がするって言うか勝たなくて良いような気にさせられる。
要は篭絡され流されているのである。こんなのは良くない。絶対に間違ってる。
清廉潔白に生きるべきなんだ!
と、心の中で思いながら僕はビキニとブラが置かれたテーブルを囲んで、体操服の女子二人とUNOをしていた。
いやもうホント情けない事この上ない話ですけどね。もう、しょうがないよね。また今度改めて、やめようって言おう。ハーゲンダッツにハーゲンダッツ渡しながら頼んでみた方が実は話早いんじゃないかな。
なんでだかわかんないけどこないだまでちょっと怖かった僕をクズ呼ばわりしている金髪のビッチの方が小悪魔より御しやすいような気がするし。
とか思う僕の前で、小悪魔はカードをシャッフルし、それを配りながら、言う。
「なんか懐かし……。これ、何枚配るんだっけ?」
「7枚、だったと思うけど。あと、ローカルルールでみんなドロー系のカードにドロー系のカード重ねて流してたけど実はそれ公式だと……」
「めんどくさいしノリで良くね?色か数字が一緒だったら良いんだっけ?」
金子さんは雑にテーブルゲーム部部長たる僕の言葉を遮って、カードを配りだした。
まあ、良いけどね。正直僕も公式ルール最近まで知らなくてドロー2!ドロー2!ドロー4!うわぁぁぁぁぁぁぁ!?で遊んでたし。
少なくとも今日は金子さんに抗う事を諦めた僕はそう雑に思い、けれどそこで、真剣な様子で声を上げる一人の少女がいた。
「待って、カナ。……ルールはちゃんと決めとこう?」
朝間さんの目が真剣だった。心なしオーラすら纏っているような気がする。負けられない何かを背負ったかのよう、と言うか本当に負けたくないんだろう。罰ゲームを一番重く見ているのは朝間さんなのだから。
そして真剣な朝間さんと割と雑な金子さんは口頭でルールのすり合わせを行った。
出せる札は同じ色か同じ数字。ドロー系カードにドロー系カードを重ねて次に押し付けるのはあり。出せるカードがある時は出さなくてはならず、出せる札がなくなったら1枚引く。手札がなくなったら上がり。最後に残った一人が、罰ゲーム。そしてカードを出す順番は、僕、朝間さん、金子さんの順番……。
まあ、大体知っている感じの奴だ。そして、
(UNOか……)
正直僕、UNOはそこまで詳しくない。ババ抜き程心血は注いでいないし正直勝ち方とかわからない。これ運ゲーじゃないの?
僕は配られた手札を見た。ワイルドが一枚とドロー2が1枚。あとリバースのカード……そう言えばあったね、そう言うのも。あとスキップとかあるんだっけ……?
これ僕普通に負ける可能性あるな。どうするか……。
考え込んだ僕の脇腹に、ふとつつかれる感触があった。テーブルの下の死角だ。
そちらに視線を向けると、朝間さんはちらっと僕に横目を向け、ちょっと手札を傾けて、その中身を僕に見せてくる。そして手札で口元を隠しつつ、こう呟く。
「任せるから。……お願い」
私を助けて、だろうか。なんかここだけ切り取ると凄いヒロイン力高そうなんだけど要求の実態は姫プレイじゃないこれ。やはり負けたくないだけなのか朝間さん……。
とは思うが正直、悪い気はしない。そう、そうだ。結果的にゲームは始まってしまったが、だからと言ってまだ朝間さんに嫌われると決まった訳ではない。この窮地を助け出してあげたら良いんじゃないだろうか。
姫プレイに傾きかけた僕へと、小悪魔は自身の手札を眺めながら言った。
「てかさ。ユキちゃんの罰ゲーム決めてなくね?」
「え?……ハーゲンダッツじゃないの?」
「いや今日ミカいないし。ユキちゃん脱がすのもなんか面白くないし……」
そこで、小悪魔はクスクス笑いながら僕を眺め、言う。
「……好きな人の名前言うとかで良いんじゃない?ねぇ、マイ?」
この悪魔完全に遊んでやがる……。そして僕に負けられない理由と言う名の免罪符を与えてくれやがる。クソ、勝つ言い訳が出来てしまった、小悪魔め……僕を堕落させる事に一切の躊躇がないな。
とか表情を引き締めた僕の横で、朝間さんは言った。
「うん。良いんじゃない?」
凄い僕に興味なさそうである。なんか、さっきは結構ダメージ喰らったけど今はもうダメージがない。
しかし何というか、ちょっと仲良くなるとみんな意外な一面が見えてくるよね。
刑部さんはハーゲンダッツだし。
金子さんはドSだし。
そして朝間さんは一見クールと見せかけてその実ちょいちょい迂闊な気がする。
とにかくこうなった以上、僕に訪れる未来は二つ。
勝って二人のどちらかに見せて貰って良い思いをするか。
負けて、何も得られないままゲームのノリで僕に一切興味のない朝間さんに告白してフラれるか。
(……もう勝つ以外の選択肢がないな)
だが朝間さんに嫌われる事態を避けるために、……そこまで制御できる気はしないけどできれば金子さんを負けさせる方向に行こう。
僕が負けるのが一番駄目。
朝間さんが負けるのは正直言って嬉しいが引き換えに朝間さんに嫌われる。
金子さんを負かすと僕は見せて貰えるしどうせ小悪魔はクスクス笑ってて怒らないだろうしもはや罪悪感ナシ。
そう順調に倫理観がバグり続けつつも……そのゲーム。
ちらっと手札を見せてくる朝間さんを勝たせるために、クスクス笑っている小悪魔に挑む、僕の姫プレイUNOは始まった……。
*
数巡、普通に回る。ゲームの最初の方だから出せるカードが尽きず、全員順調に手札が減って行く。その最中、僕はプレイしながらゲーム性を思考していく。
「あ。……あ~あ、」
と呟きながら、出せる札がなかったのだろう。金子さんは山札から1枚引いていた。
そう。やはりこのゲームのキモは出せる札があるかの運……ではなく。如何に次の手番の相手を封殺するかだ。
ドローやスキップ、リバースの直接的な妨害札もそうだが、重要なのは色管理。次の手番の相手が出せなかった色を記憶し、その色を優先的に相手に押し付けていく事。
逆に言うと、接待も可能。出しやすい色にしておいてあげることも可能。そして僕は朝間さんの手札にあるカードを把握している。
つまり……。
「あ。……久住くん、どうして……?」
出せる札がなくなってしまったのだろう。僕の次の手番の朝間さんは、僕が出した札を前に、困り切った視線を僕に向けてきた。
だから運ゲーって言ったじゃん。管理しようにも僕の手札の問題もあるし……僕も他に出せる札なかったから。
遠い目をした僕の前で、朝間さんは困った顔のまま山札からカードを一枚引く。
そして、
「……………やっぱり、私運ないのかな……?」
姫は悲壮感を漂わせていらっしゃった。接待するか……できそうならだけど。
と思った僕に、朝間さんはカードを見せてきた。朝間さんの手札は残り4枚。黄色が2枚に赤が2枚、赤のうち1枚は今引いたんだろうドロー2。
僕の手札にもドロー2がある。ルール的に、これを投げると朝間さんもドロー2を投げ、金子さんがドローカードを持っているかどうかのギャンブルが発生する。
それをやるべきかどうか。ちなみに僕の手札は残り3枚で、ワイルドが1枚に黄色のドロー2、リバース。
こういう妨害札を最後まで持っているとペナルティなルールもあるらしいが、今回そのルールは言及されてないからないだろう。ローカルルールは言ったもん勝ちの側面がある。
僕は暫し考え……考えているところで、金子さんが札を出した。
「……勝てそうじゃんユキちゃん。ホッとした?」
クスクス笑いながら、金子さんが出した札は、ただの数字の札。その色は、僕のドロー2、そしてリバースと同じ黄色……。
(攻めるか?)
ここでドローカードを切るかどうか。そこは勝負の分かれ目だろう。
ここで僕がドロー2を出し、朝間さんもドロー2を出す。そして金子さんがドロー系のカードを握っているかどうかで、勝負は大きく変わる。
もし金子さんがドローカードを持っていたとしたら、僕は最大8枚引いてほぼほぼ負ける。逆に持っていなければ、金子さんが4枚引いて金子さんの敗北が大きく近づく。
金子さんの今の手札は、3枚。そこにドローカードがあるのだろうか?クスクス笑う金子さんの表情から、その手札はわからない。
そして僕の右隣では僕に目で必死に何かを訴えながら手札を見せてくる朝間さんの姿がある。この姫、凄く助けて欲しそうである。
そんな二人を左右に、僕は真剣に考えこみ……
(ギャンブルのリスクを負うのは僕だ。ワイルドを温存すれば朝間さんのアシストは出来る。リバースを切ると手番と手札枚数的に朝間さんが負ける確率が上がる……)
ていうかこの姫出せる状況になったら何も考えずドローカード出しそうだし。それされると僕出せる札があったら出さなきゃいけないってルール的に朝間さんの直接的な敗因になり朝間さんに恨まれながら朝間さんに見せてもらうって言う背徳の極みみたいな状況になるし。
それはそれで良いかもしれないとちょっと思ってしまった僕は多分悪魔の悪い影響を受けているんだろう。だが、僕は欲望に抗う。
「……行くしかない」
呟きと共に、僕はドロー2のカードを場に出した。
勝負に、出てみようと。
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