6 ババ抜きⅡ 優柔不断と罰ゲーム
論理型の僕。
ギャンブラー型の金子さん。
そして突如覚醒したスタンド使いの朝間さん。
高校生にもなって無駄に真剣にやるババ抜きは割と白熱しながらも続いていき……やがて気付くと、そのゲームは最終局面に入っていた。
「……良し、」
と呟いて、朝間さんは手札を捨てる。それで、朝間さんの手札の枚数は残り2枚。カウントを間違えていなければ、その手札は6と13。
僕の手札は残り1枚。13と4だ。そして金子さんの手札は……。
「揃ったじゃん」
呟き、朝間さんから札を引いた金子さんはペアを捨てた。捨てられたのは、6のペア。そして金子さんの残り手札は2枚。消去法で、その札は……
(4とジョーカー……)
4を引けば、僕の残り手札は13のみ。そして、その一枚を引かれて僕は上がり。朝間さんも、上がり。このゲームは金子さんの負けで幕を閉じる。
まあ正直それでも良い気はする。が、朝間さんに見せてもらうためには……。
(引かないと。……ジョーカーを。そして押し付けないと)
真剣に考えこむ僕へと、金子さんはクスクス笑いながら手札を差し出してくる。
「はい。……どっち?」
手札は2枚。だが、片側が露骨に上に寄せられている。
(心理戦……)
そう。この最終局面まで行ってしまうと、もう確率云々言ってる場合ではなくなるのだ。
僕のプレースタイル的には、この最終局面に行く前に上がりを目指すタイプ。だが、朝間さんにジョーカーを押し付けることを優先し過ぎた事と覚醒したスタンド“ハーゲンダッツ”によってこの場面まで事態が進んでしまった。
ちなみにハーゲンダッツはさっきハーゲンダッツ代を渡して退室させてある。今頃コンビニで念願のハーゲンダッツを買っている頃だしそうなった時点で僕は色々負けてるような気はしなくもないがまだ僕は負けてない!
(勝つんだ。勝って……ていうか朝間さんを負かして、見せて貰うんだ……)
僕の強い闘気のせいだろうか。僕の横で朝間さんがちょっと鳥肌でも立ったように肩をさすっていた気がしたが、それでも僕は負けない。いや、負けないって言うか朝間さんを負かす。為に一端勝利から遠ざかる。
(ジョーカーは、どっちなんだ……)
差し出された札を前に、僕は迷う。これまで何度かこの局面があったが、毎回、目立つ札はジョーカーとは違う札だった。だが、
(ここで変える可能性が……)
悩みながら手を動かす。そんな僕を眺めクスクス笑いながら、金子さんは煽ってくる。
「そっちで良いの?あ、やっぱやめとく?……めっちゃ悩むじゃん。ウチを信じないの?」
凄いサドッ気が溢れ出てる気がする。やっぱり金子さんそう言うタイプだよな……じゃない。今重要なのは僕がジョーカーを引けるかどうか。クソ、決断できない……。
「ユキちゃんめっちゃ優柔不断じゃん」
「ババ抜きって性格出るんだ……」
とかなんか言われてしまっているが、……いや、確率的にはどっちにしろ2分の1だ。そして、心理戦を無視して手癖を信じれば、目立つ札はジョーカーじゃない。
つまり、狙うべきは……。
「こっちだ!」
その声と共に、僕は金子さんの手札から、上にあげられていない方、引いて欲しくなさそうな方を引いた。瞬間、金子さんは「あ、」と呟く。
その呟きが意味するのは……僕の、敗北だった。
引いた札は、4。それを目にした途端、僕は意気消沈しつつ、手札に元からあった自身の4を合わせて、その札を捨てる。
そうして僕の手元に残った一枚のカード。13のカードを横からひょいっと朝間さんがくすねて行き……。
「やった!……良かった~、」
と言いながら、その札を捨てていた。そして朝間さんは上がり。僕も上がり。最後までババを握り続けていたのは……。
「負けか……最後ノると思ったのに。逃げるんだ、ユキちゃん」
金子さんである。いやまあ、僕が負けなかったから最悪ではないんだけど……。
とか思った僕を眺めて、金子さんが言う。
「じゃあ、罰ゲーム、ウチ?」
「今ミカいないし、やったことにしちゃえば?ね、久住くん」
そんな風に朝間さんは言っている。それに、意気消沈……と言うかゲームが終わったからハイテンションも終わった僕は、頷き掛けた。
だが、そこで金子さんが言う。
「いや、それはナシっしょ。ユキちゃん、こっち」
そう言って、金子さんは部屋の隅っこに僕を手招きしてくる。
それを前に、僕は一瞬迷った。正直、ババ抜きしてるだけで楽しかったし、罰ゲームの内容はあまり褒められたことではない、やれやれはやし立てる元凶のハーゲンダッツもいないし、ここはノーと言うべきだろう。
と、思いながらも……結局僕は弱い人間である。
手招きされるままに、僕は部室の隅っこに移動する。
「ハァ……」
安堵なのか呆れなのか朝間さんが漏らしたため息を、聞きながら。
そうして部室の隅っこに立った僕に、金子さんは朝間さんに背を向けながら立つと、僕を見上げてこそっと言った。
「露骨にテンション下げられるとさ。……ちょっとムカつくんだよね」
「え?ええっと、……すいません」
とりあえず謝った僕を眺め、金子さんは口元を隠していたマスクを下ろす。八重歯が見えた。それこそ吸血鬼……いや小悪魔っぽい八重歯である。
そんな口元にどこかからかうような笑みを浮かべ、金子さんは自身の胸元のボタンを外し始める。
「別に、良いけど。やっぱマイが良かった?」
「え、ええっと……」
と、言葉を探した僕は、けれどそこで、口を閉ざした。
シャツのボタンが上から外され、金子さんの胸元が、谷間が、露わになっていく。
だが、不思議なことに、……そこにあるべきブラが見えない。
白い素肌、特別大きい訳でもなく、だが小さい訳でもない。形の良い双丘があらわになるばかり。
それを不思議がる僕を前に、金子さんは面白がるようにクスクス笑みを零し、囁いて来た。
「でも、今日はウチで我慢して?……今度、手伝うから」
そして金子さんは僕に身を寄せ、少し身を屈め、大きくはだけたシャツの胸元を引っ張り、その奥を僕に見せてきた。
鎖骨の辺りで、首にかけられた銀のアクセが揺れている。その奥……何にも隠されていない白い肌が、僕の眼前に見せつけられた。
そうして目の前に現れた光景を、
「…………、」
僕は驚きに目を見開き、凝視してしまう。
シャツの奥。そこに、下着がなかったのだ。いわゆるノーブラである。
ノーブラだと言うのに、金子さんは躊躇いなく、シャツを引っ張りはだけたその先を僕に見せてくる。
白い双丘が、僅かに揺れていた。本来ならそれを包んでいるはずの肌に密着する布地がなく、何もかも全て。淡い色合いの突起まで全て、僕の視界に映り混んでいた。
思考が止まり、ただその光景。唐突に視界に現れた酷く刺激の強い素肌をただ見続けた僕の耳に、ふと、クスクスと言う笑い声が届いた。
その声に僕は視線を上げる。すぐ目の前にあったのは、クスクスと、からかうような笑みを零している、少女の素顔。
恥ずかしがる様子など微塵もなく、小悪魔は囁くように問いかけてくる。
「ユキちゃん、どうかした?」
そして、クスクスとまた笑みを零す。それを前に硬直し、それから視線を逃がすように――あるいは本能に従う様に視線をまた下ろした僕を前に、けれど小悪魔はさっと身を引き、ボタンを元に戻し始めた。
「フ、フフフ……」
面白くて仕方がないと言わんばかりに、僕を見据えて笑みを零しながら。
そんな笑顔を前に、彼女の視線から逃げるように僕はそっぽを向くと、少し乾いた口で、どうにか言った。
「あ、あの、……下着……」
「え?……ああ」
そこでニヤッと、小悪魔は笑い、その笑顔をマスクの奥に隠しながら、言った。
「つけ忘れて来ちゃった。……ダサかったけど昨日かばってくれたお礼に」
そして、金子さんはクスクスと笑い、朝間さんの元へと戻って行くと、「もっかいやる?」とか普通に声を投げながら。
それを、僕は呆気にとられたように呆けて見送り……やがて、呟いた。
「…………ビッチじゃん」
いや、わかってたはずなんだけどね。改めてその幸運と言うか片鱗と言うか輪郭と言うか全てを見たと言うかね。
ちなみにその後戻ってきたハーゲンダッツにより開かれた2回戦。
敗者は朝間さん。
朝間さんは、やっぱりガードが堅いんだろう。下着じゃなくビキニを着ていた。
それを前に……僕は、もちろん表にも口にも出さないけれど、心のどこかで少しだけ思ってしまった。
刺激が足りない、と。
初恋の相手の痴態だったと言うのに。
……どうやら僕の倫理観は早くもバグらされ始めているらしい。
なんか僕に興味を持ってしまったらしい、クスクス笑っている、小悪魔によって……。
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