第4話 準備

 本編開始時点で、主人公は十五歳だ。だから、十五年間、色々と準備する猶予がある。まずやらなきゃならないことは、レベリングと装備集めだ。レベリングと言っても、別にレベル制度が世界に導入されているとは思えないし、トレーニングって言ったほうがいいかな。そこらへんの森に行けば、雑魚の魔物なんて湧いているだろうから、そいつらと戦っていかなきゃな。素材とかも落とすだろうし。


 とりあえず、ゲームとどれくらいの違いがあるのかを調べる必要がある。例えば料理なんかがわかりやすい。ゲームによって、料理は一瞬で終わったり、ちょっとしたミニゲームになっていたりする。


 料理をちゃんと一から作らなきゃならないとなると、ゲーム的な要素はほぼないと言っていいはずだ。ここはVRじゃないから多分ちゃんと料理しなきゃいけないと思うけど。


 俺の家は……というか村の家はみんな木造建築だ。けど、日本のものとは違う。屋敷というわけでもない。ここはいずれ火の海と化してしまうから、木でできた家の方が都合がいいわけだな。燃えやすいし。村を襲撃されるって、なんか燃えているイメージがあるんだよな。


 後は武器とか、装備とかだな。素材を手に入れて作るのがゲームの基本だけど、素材があっても勝手に自動で作ってくれるわけじゃないよな。素材を揃えたらいきなり浮き出して、混ざって完成! みたいなことがあったら面白いけど。



◆◇◆



「はい、ご飯できたよー」


 母親が料理をしているのをこっそり見ていたけど、ちゃんと過程を挟んで料理一から料理していた。ようは、ゲームでパパっとやってしまってることは自分で一からやらなきゃならないってことだ。そうじゃないと人生がゲームぽくなって嫌だったし、これでいい。


 食べ物は簡単なもので、お粥とか、細かくした野菜とかだ。味気ないけど、まだそんなに食べれるような体でもないし、いいんだけど。父親と母親がさ、お肉とか魚とか食べてるのを見ると、どうにも食べた気がしないんだよな。


「はい、あーん」


「あーん……もぐもぐ……」


 母親が妹にあーんをしてあげている。なかなか微笑ましい光景だ。ルキナも三歳児ぐらいの見た目になった。俺もだけど。俺は中身が高校生なのもあり、あーんをしてもらうなんて情けないから、自分で食べる。母親はちょっと残念そうにしていたけど。俺がただの赤ん坊だったらやらせてあげられたんだけど、ごめん、妹で勘弁してくれ。


 赤ん坊の視点から見て、育児って本当に大変なんだなっていうのを感じた。子供の行動には細心の注意を払わなきゃいけないし、心が休まる暇がない。寝ようにもぐっすりと眠るわけにはいかない。世間一般的にはこれを母親に任せっぱなしの父親が多いわけだから、そりゃあ批判されるよなとは思った。


 父親はそんなに家に帰ってはこない。三日に一回位のペースで帰ってくる。なんとか隙を見て外に出てみたいけど。母親が寝た後ならなんとかなるかもしれない。



◆◇◆



 幼児の体ってのはどうにも眠くなりやすい。集中してないと、すぐにスヤスヤってなってしまう。そこで、俺は瞑想をすることにした。瞑想をすると、頭の中を一度空っぽにできるから、スッキリする。頭が整理されると、その後考える時も思考が回りやすくなってとてもいい。


 昔の体は、割と無理してもどうにかなったものだけどな。徹夜してもなんとかなるし。いや、まあ無理はしないに限るんだけど。けど、無理をしてでもやらなきゃならないことは生きていれば必ずある。譲れないもの、渡せないもの、信念。何かはその時になってみないとわからないけど。そして、それは他人からしたら、くだらない、価値の無いものなのかもしれない。


 ただ、今はその時じゃない。だから無理はしない。



◆◇◆



 三週間ほど経つと、母さんは夜はぐっすりと眠るようになった。俺はもとより、妹も五歳そこらの知能はつけてきたからだ。だから夜逃げ出すのは簡単……とは行かなかった。


「にぃに、いっしょにねよう」


 妹が俺にくっついて眠ってくるからだ。すっげえ力強い。押し返せないわけでは無いが、そんなの俺の良心が痛む。


 ゆっくり、トントンしながら、妹を寝かせる。誰かが見ていたら、びっくりするような光景だろう。


 ルキナを寝かせたら、俺のターンだ。深夜に現代のような娯楽はないから村のみんなは就寝している。


 

◆◇◆



 木の枝とか、石とかを集める。驚いたのは素材をくっつけると、武器の形になったことだ。いかにもゲームっぽいって感じた。


「うへぇー」


 思わず声を上げてしまった。ここまでゲームっぽい要素は一切無かった。料理だってちゃんと作らなきゃならないのに。面白いことが本当に起こっちゃったよ。始めて作ったのはランクDの石の剣。はっきり言おう。クソ雑魚だ。まず、武器についてだが、能力がある。ウェポンスキルとパッシブスキル、そしてファイナルスキルだ。ウェポンスキルはその武器のシリーズごとに決められた効果だ。例えば金の武器なら、金のから始まる武器のウェポンスキルは全て同じだ。次にパッシブスキル。これは武器毎に全て違う。そしてファイナルスキル。これは必殺技で、これも武器毎に違う。


 石の剣はその名の通り石シリーズの武器だけど、石の武器の効果は防御力が一%増加。実質ほとんど意味なし。まあDランクなんてどこのゲームでもそんなもんでしょ。意味のない雑魚武器っていうのはどこのゲームにでも存在する。そうすることで縛りプレイヤーなんかの楽しみを増やしているんだ。最高難度を最低武器で攻略するってのはゲーマーの楽しみ方の一つでもある。


 だが、人生でそんなリスクのあることをするわけにはいかない。命を賭けるのと、命を捨てるのではわけが違う。せっかくの知識があるんだから、無双してみたいというのが俺の気持ちだ。


 とにかく、素材を揃えさえすれば装備を簡単に作れることがわかった。これならランクXの装備が作れる。ランクXはストーリーの進行上、入手することが不可能な最強装備だ。ただ、素材レシピはある。入手できるかは別として。


 それぞれ思い出してみよう。ランクXの装備は合計五つ存在する。


『終焉の剣 ジ・エンドソウル』

 滅びの力を宿した魔剣。一つの文明を滅ぼしたとされている。触れた全てを滅ぼしてしまうため、破壊ができず今もどこかに封印されているらしい……。


『神王刀 無幻』

 数百年前の乱世に一人の侍が持っていたとされる刀。戦場で大地を断ち、敵を殲滅したと伝えられている。この刀を打ったのは平凡な刀鍛冶とされているが、数百年間、数多の刀匠が半生を費やしても到底追いつけない奇跡の刀と、刀匠の間では噂されている。


『崩壊の杖 ロストエンド』

 滅びの力を宿した魔法の杖。この杖で使うことができる魔法は全て少なからず世界に影響を及ぼす。使った者は肉体が崩壊し、使用を続ければ、使用者は灰となると言われている。


『奇跡の剣 ライトパニッシャー』

 世界を闇が多いし時、勇気の心を持つ者、その剣で闇を斬り裂き、世界に青と光をもたらさん。


『支配者の剣 オールオーバーザ・ワールド』

 かつて世界を統治した覇者が使用したとされる伝説の剣であり支配者の証。その覇者はこの剣で他の全てを凌駕し、あらゆるものを蹂躙するという。これを持てる者は支配者の器だけであり、その資格が無いものは触れただけで身を滅ぼす。この世界に存在するあらゆるものを管理することができると言われている。


 以上がランクXの装備達だ。名前も設定も考案したのは全部俺。まさに中二病の極み。普通の人生だったら黒歴史もいいとこだ。ただ、この世界には実際にそういうものの記録が残されている。前述の三つは歴史書にも記載されていた。ただ、『ライトパニッシャー』と『オールオーバーザ・ワールド』に関しては一切の記載は無かった。が、それでいいんだ。わかってるじゃないか。


 『奇跡の剣 ライトパニッシャー』は魔王戦で初めて登場する武器だ。魔王との最終決戦で追い詰められた主人公達の前に突如として現れ、その剣を手に取り魔王を倒す……という感じ。


 『支配者の剣 オールオーバーザ・ワールド』はいわゆるゲームの無敵モードみたいなやつで、何でもできるっていう感じで作った。だから、ゲーム内に存在する歴史や物、人でさえ自由自在に書き換えることができる。まあ、ゲームのシステム上はそんなことはできないけれど、設定上は人の名前、性格、過去や記憶、能力と、ありとあらゆる物を支配できるという代物だ。


 ちなみに魔王を倒すことができるのは『ライトパニッシャー』と『オールオーバーザ・ワールド』だけだったりする。


 俺がこの世界を支配するに当たってオールオーバーザ・ワールドの入手は必須だ。というかオールオーバーザ・ワールドを手に入れればその時点で世界は俺のものになったも同然だ。



◆◇◆



 村のはずれに使われなくなった小さな小屋がある。最初の方だと結構役に立つアイテムが隠してあるんだけど、この小屋に置いておけば、色々作ったものも、隠しておけるはずだ。


 村のはずれっていったって結構遠くにあるし、他の人にバレないように気を遣わなきゃいけないし結構疲れるかなと思ったけど、汗一つ掻くことはなかった。ハーフエルフの体はいい。体が軽いし、よく動けるし、疲労も溜まらない。小さい子供の姿でも前世の俺より多分身体能力が高い。これが種族の差か。ラノベとか読んでると、人間の亜人の身体能力の差は如実に表れていることが多い。うらやましいと、思っても人間が亜人になることはできない。うらやましがられる側に回るとはな。種族というアドバンテージはすげえや。


 使われていない小屋だけど、きれいなものだ。手入れされていないとすぐに傷んだり、苔が生えたりすることがあるはずなんだけど、すっからかんとしてるだけで、別に傷んだりはしていない。


 とりあえず作った武器やら集めた素材やらを置いておく。とはいっても村の近くにある素材なんてろくに使えるものはないんだけど。一日に出てこれるのはせいぜい三時間ぐらいだ。もっと動こうと思っても眠気が襲ってくる。小屋で眠ってしまったら次の日騒ぎになってしまうから、そういうわけにはいかない。



◆◇◆



 産まれてから一年ぐらいたった。小学生位の見た目になった。日中に森の中に入っていっても特に気にされることはなくなった。ルキナとシロナもついてくる。おてんば娘だ。エルフってのは自然が好きだから森の中に遊びに行くのは当然ってのが村人達の意見だ。


 一口にエルフと言ってもこの世界のエルフにはいくつか種類がある。街エルフと森エルフと水エルフとダークエルフだ。


 森エルフは森の中にある里に住んでいる。水エルフは湖や海の中、あるいはその付近に住んでいる。街エルフは各エルフ出身で、人間に感性が近く、人間の街で暮らしている。ダークエルフは魔王に与する者たちがほとんどだ。


 ちなみに母さんは森エルフだけど、住んでた里が燃えされて、彷徨ってたところを父さんに拾われてこの村にやってきたらしい。俺の設定だと父さんに助けられたぐらいのフワッとしたものだったけど、ここら辺はちゃんと補完されている。ストーリーに関わることはめちゃくちゃ細かく指定したけど、ストーリーに関わらないことは割と適当にしている部分もあったからな。


 あの小屋は俺たちの秘密基地ってことになっている。俺たちだけの秘密だ。


「うーん……森の中は気持ちいいね」


 シロナは背伸びをする。静かで穏やかな風、森の匂い。エルフの体には自然の方が適している。秘密基地は森の中にあるからエルフの三人には村よりも快適だ。


「そうだな。将来は森の中に家を建てて、四人で暮らすスローライフも別に悪くはないよな」


 四人と言ったのは間違いじゃない。俺にはもう一人幼馴染がいる。赤髪のツインテールの女の子、アカシア・レッドホール。彼女は生粋の人間だから、成長するまでに時間がかかる。ちなみに育っても貧乳であることが確定している。


 スローライフが悪くないと言ったのは本心だ。異世界転生して、スローライフするっていう話も沢山ある。一人で自由奔放に過ごしたり、友人と過ごしたり、恋人と過ごしたり、あるいはハーレムを作ったり。色々あるけど、スローライフは快適だ。自給自足だけど、気持ちのいい生活だろう。昔キャンプをしたことがあったけど、あれの発展系みたいなものじゃないかな。


「あかしあちゃんは私達みたいに、自然が好きとは思えないよ」


 シロナは否定的だが、彼女の意見はよくわかる。俺たちはエルフだから自然を好む本能みたいなのがあるんだろう。森エルフだし。ただ、人間はそういった感性が無い。


 それともう一つ思ったことは虫とかが友好的だ。村人を見てみると虫に噛まれる人がいたけど、俺は噛まれたことがない。虫は近づいて来ても噛まれない。そして、俺も虫が寄ってきてもイライラしない。昔は夏に噛まれたらめちゃくちゃムカついたけど。というか羽の音でもうイライラしてたけど。やっぱりエルフって自然の方が性に合ってるらしい。


「あははっ。まあ、確かに。けど、仲間外れって可哀想だろ?」


「兄さん、優しい」


「そうか? 普通じゃない?」


「そういうところが優しい」


 スローライフは良いものだと俺も思う。けど、俺にとっては冒険より魅力的ではない。本当なら今にでも広大な世界に旅に出てみたい。けれど、我慢だ。



◆◇◆



 夜は地道に作業。剣で素振りの練習中。あと少し成長したら夜はもうちょっと遠出してモンスターと戦ってみようと思う。今は夜がとっても快適だ。なんでかっていうとスキルのおかげだ。


 俺の作ったゲームではキャラごとにスキルが存在していたが、この世界の人達はそれを可視化できないもの、異能とか、超能力とかって形で読んでいる。主人公は交流した人のスキルを習得することができる。


 目を閉じて頭の中でイメージを浮かべていると、そのスキルの名前を見ることができる。少なくとも名前のつけたキャラのスキルは全部考えてたから、この先冒険をするってなったら頭の中がぐちゃぐちゃになりそうだけど。


 とにかく、頭の中で自分の手を動かして使いたいスキルを選択すると、それを選べることができる。


 で、だ。俺が夜快適な理由だけど、このスキルが関係している。


【月夜の乱舞】

 夜間中、全ステータスが超アップし、毒、麻痺効果を無効にする。満月に近づく程、ステータスアップ効果が上昇する。


 このスキルのおかげで夜はとっても快適だ。ちなみにこのスキルはシロナから習得したものだ。彼女は半分エルフで半分吸血鬼だからな。この世界だと吸血鬼は日中ではまともに生きていられない。シロナは半分だし、生命力の高いエルフの血も混ざってるから日中でも十分動けるけど、夜間の方が遥かに高スペックだ。だから、基本ステータスは少し低めに設定した。半分吸血鬼という設定をステータスとか、スキルで表現できる俺、よく考えたなぁ。


 よく考えたら、このスキルが序盤から使えるってやばいな。満月の夜だと、二百パーセント、新月の夜でも、百五十パーセントのステータス上昇効果だ。夜間なら上位レベルのモンスターだって普通に戦える。


 とりあえず修行は続けよう。普通、剣というのは流派があって、型があるんだけど、俺はそんなの知らない。適当なみようみまねだから、実戦でまともに運用できるかわからない。だから素振りもしてるけど、格闘技も練習している。まあ、これも型とかは特にないんだけど。


 さて、あとどれくらいのトレーニングをしたら、モンスターに挑んでみようかな。

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