第3話 支配者になりたくて

 異世界転生した俺の父親はどうやら国所属の騎士らしい。国の名前まではまだ、わからないけど。いいぞ、面白くなってきた。騎士団があるってことは、少なくとも戦う相手はいるということだ。当然赤ん坊の俺は修行することなんてできないけど、将来に楽しみがあるのはいいことだ。


 父親は俺と妹が産まれてから、二日後に帰ってきた。うん、なんていうか、どこにでもいる一般騎士みたいな感じ。別に強そうな見た目でも容姿でもガタイでもないし、ネームドにはなれなそう。いわゆるモブってやつだ。母親が結構美人だったのに対し、この人はイケメンではなく、かといって顔が悪いわけでもない。俺と妹は母親の遺伝が強かったら、そこそこの容姿にはなりそう。


 妹は赤ん坊らしく、よく泣く。親が泣く子供にイラついて虐待とかって前世のニュースでは結構聞いたけど、正直全然イライラしない。だって産まれたての子供なんだろ? 親に頼ろうとして何が悪いのか? 全くわからない。子が親を頼れなければ、何を頼ればいいんだ?


 まあ、そんなことより、なんとかしてこの世界の情報を可能な限り集める必要がある。ラノベで異世界に行く手段は転生か召喚。その上で転生最大の利点はその世界の人間であるということだ。例えば一人で突然異世界に召喚されたとなると、普通に考えてただの不審者だ。あと、異世界で日本語が使えるとは限らないし、文字だって見たことないようなものかもしれない。


 そう考えると、この世界では日本語が使える。ありがたいものだ。知らない言葉だと、覚えるのに時間がかかってしまう。俺と異世界人の使う言葉の意味に齟齬があっても、時間をかけて、俺の方が修正していけるし。ただ、名前は明らかに異世界だ。ていうかエンペラーってどういう意味になっているのかな? 皇帝って意味だと、最高位のボンボンになるけど、どうにもそうは思えない。だって父親はモブだし。失礼だけど。異世界もののチートなんてだいたいモブだと思っていた……みたいな感じだ。もしからしたら俺もそうかもっていう期待はしてみたいけど、まあ、そんな都合よくいかないよな。



◆◇◆



 とにかく周囲の会話に全神経を集中して聞く。聞いたところによると、俺の父親は中堅の騎士らしい。そこそこの評価はもらっていて、部下もちょっとぐらいはいるらしい。まあ、高い地位で変に目立つのも嫌だし良かったかな。

 

 それと、気になったことは母親はエルフらしい。始めてみたときは耳が髪に隠れて見えなかったけど、耳が尖ってたし間違いない。


 なんかちょっと怖くなってきた。俺の名前はマギア・エンペラーだし、母親はエルフ。俺はゲームの主人公の設定で母親がエルフのハーフエルフにした。しかも金髪なのまで被ってるし。俺の作ったゲームの世界なんじゃ……なわけないよな。思い上がるのもいい加減にしろ、俺。何かとんでもない奇跡が起きているに違いない。違い……ない、うん。村で産まれたけど多分違う。確証が持てないからくだらない期待をしてしまうんだ。


 そりゃ、俺が産まれた世界が俺の作ったゲームの世界なら最高だ。だってそうしたら俺は全知全能、万能の神のようなものだ。まさに最強。でも、そんなことありえないだろ? だって俺が作った設定で成り立ってる世界が存在するってことだぞ? んなアホな。


「おねーさん、赤ちゃん産まれたの?」


 幼い声の少女が駆けてくるのがわかる。


「うん、ほらかわいいでしょ? シロナちゃん」


 出てきた少女は白い髪していて赤い瞳の少女だ。三歳から五歳あたりかな。いやいや、そうじゃない。シロナ? シロナっていったか?!


「うああ」


 上手く言葉が出せない。


「うん、そうだよ。私、シロナ」


 彼女は目をキラキラさせて、俺と妹を見てくる。


 そんなことより、シロナ。この子の名前がシロナだって。俺の作ったゲームのヒロインの一人じゃないか? 見た目も幼いけど、そっくりだ。


「マギアとルキナだよ。仲良くしてあげてね」


「うん!」


「私もだけどエルフは成長が早いわね。シロナちゃんが産まれたのは一月前だったのに。この子達もすぐにすくすく育ってくれるといいな」


 エルフの生態まで俺の考えた通りじゃねぇか。そして一月前に産まれたってことは幼馴染だよな? ……はは。


「うふううふう」


 笑い声が出てしまう。口からは上手く出せないけど。


「あ、笑ってる! かわいい!」


 ここがもし、もし本当に俺が作ったゲームの世界なら、俺は無双できる。


 俺の頭の中にはゲームで作った設定の全てがインプットされている。そもそも、俺のアイデアをアウトプットしたものがあのゲームだからな。この世界において、俺の知識は全能と言える。まさにラノベ主人公みたいに、異世界無双ができるんだ。


 とにかく、まずは本当にそうかどうかを確かめる必要がある。ここまで興奮して、ぬか喜びだったら、もう一生のトラウマになりかねない。


 とにかく情報だ。人物でもアイテムでも何でもいい。もう、確信寸前まで来ている。だが、絶対的な確証を手に入れる必要がある。


 俺の作った設定通りなら、ハーフエルフでも三週間ほどで立って喋れるくらいにはなる。何年かは何もできない日々が続くと思ってたけど、そうはならなそうだ。



◆◇◆



 一週間ほど経つと口が上手く回るようになってきた。人間なら、化け物とか言われそうな気もするけど、エルフなら早熟だと思われるのはありがたかった。


 村の人達は人間が多いけど、エルフも少なからずいる。エルフは亜人扱いだから、基本的には人間に蔑まれている設定だけど、この村では特にそんなことにはなってない。


 ここらへんは特に設定してない。村の人達は皆優しかったーくらい。元々本編開始時点で壊滅する予定だし。というかそうしないと物語が始まらないからな。


 だからここらへんの齟齬はあり得る。そもそもCGは足りない部分を自分で処理し、ユーザーの考えた設定を最優先して、ある程度継ぎ足して作るからな。ちょっと知らない話があったり、知らないキャラがいるのは許容範囲と考えるしかない。それが嫌ならモブキャラまで一つ一つ名前とか性格とか考えなきゃならなくなるし。


 大事なのは大枠だ。これから起こることは断定できなくても、過去の記録なら何かしらで残っているはずだ。



◆◇◆



 歴史書を読んでみると、俺が設定していた通りになっている。出てくる過去の偉人も国の名前も、何もかもが俺が設定したとおりになっていた。


 この世界では魔物・モンスターが存在していて、騎士やら魔術師やらがそれらを退治しているって感じ。ただ、そんなことよりも、冒険者の方が魅力的だ。冒険者はパーティを組んで、各地を気ままに旅したり、ダンジョンでモンスターと戦ったりする。そして、冒険者は攻める側の人間だ。


 この世界には魔界と呼ばれるまあ、魔物達の国みたいなものがある。魔界には魔王がいて、多くの魔物はそれに従っている。魔王が部下を使って人々を襲っているんだな。騎士達は保守的なため、国を攻められたときに防衛するような立場だ。


 だから、根本的な解決が不可能に近い。ただ、冒険者は魔界を求める人達もいるから現状根本的解決をするには、冒険者を頼りにするしかないってことだ。だから、一部ては勇者とも呼ばれている。


 だが、ここで問題が生じる。ここまで完璧に俺の思い描いた通りなのだが、ルキナだけは別だ。主人公は男女選べるようにしてあったが、双子の設定はない。おそらく、俺がイレギュラーなのだろう。多分ルキナは女側の主人公だ。俺が名前を特に決めなかったから、まあ、勝手に名前が決められたんだろうな。


 だから、このまま行くと、ルキナは勇者になって、魔王を討伐することになる。


 なんか楽しくないよな。俺の考えたストーリー通りに動けば、確定されたハッピーエンドを向かることができる。けど、なんか違うよな。ゲームで遊ぶならともかく、せっかくの転生だぞ? もっとこう……すごいことをやってみたいもんだけどな。……語彙力なさすぎて酷い文面になっちゃったよ。


 いっそのこと、魔王みたいなことをしてみたいよな。部下を従えて、好き勝手に暴れる。うん、めちゃめちゃ楽しそう。支配者みたいで……いや、待てよ。そうじゃん。俺がこの世界の支配者になればいいんだ。この世界では俺は全知の存在だ。この世界における知識と現代の知識を合わせれば、行けなくはないんじゃないか? 


 どうせ一度は死んだんだ。なら、二回目の人生はめちゃくちゃやってやるか。

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