第10話 明旦
桃李の宴は無事お開きを迎え、白檀たちはその後の片付けにてんてこ舞いになった。一日働きづめでくたくたになり、後宮の自分の部屋——六人一部屋だが――に戻ってからは死んだように眠り続けた。そして翌日、普段よりも起床時間が遅く、たっぷりと眠った白檀は大きな伸びをしてから、自分がとんでもない失態を犯したことに気が付いた。
(私、清香君に名前教えてない!)
昨日は芳玉も白檀も焦っていて名乗る余裕などなかったし、火を消してからは二人ともそれぞれの職務に忙殺されて再会するどころの話ではなかった。
(桃李の宴で手柄を上げるはずだったのに……)
皇帝に対する謀略を事前に察知して止めたのだ。この大手柄、本来なら位階を授けられたって罰は当たらないはずなのだが、相手に名を名乗っていない以上報酬は期待できない。何せあちらとしても何千人といる宮女の中から一人を見つけ出すことなど不可能に近いし、そもそも向こうに自分を探すつもりがあるのかも謎だ。白檀の存在などとうに忘れているかもしれない。それに、自分から名乗り出ようにも男子禁制の後宮にいる限り芳玉にもう一度会うことなどできないし、身分的にも白檀が簡単に接触を図れる相手ではない。後宮内で無闇に口に出せる話題でもなく、これはもう如何ともしがたい。
(私の馬鹿!)
顔を覆って布団に倒れ込むと、同室の宮女たちが心配そうにつついてくる。
それでもよくよく考えてみると、桃李の宴における重大な秘密を知っているなどという理由で白檀が厄介払いされる恐れも無きにしもあらず。寧ろ下手に怪しまれる前に逃げられて幸いだったのかもしれない。
「さあ、早く起きなさい!」
女官長の見回りがやって来る。やはり人間地道に頑張るのが一番だと自分に言い聞かせ、白檀は今日も掃除の仕事へと向かった。
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