毎日小説No.15 しゅうかつパニック

五月雨前線

1話完結

 大学4年生の俺は、焦っていた。かなり焦っていた。同学年の友人が次々と内定を勝ち取っていく一方で、俺はまだ一つも内定をもらってなかったからだ。就職浪人は嫌だ、ニートは嫌だ、という焦りが募り、そのせいで面接でもミスすることが増えてしまった。まだ内定もらえないの? と親から嫌味を言われるし、もうふんだりけったりだ。


「ヘイタケル! どうしたノ?」


 大学の食堂で思い悩んでいた俺の前に、留学生のマイケルが現れた。マイケルはアフリカ系の留学生で、かなり仲のいい友達だ。仲がいいのだが、思えば最近はお互い忙しくて話す機会が全然なかった。


「やあ、マイケル。実は就活が上手くいかなくてね。困っているんだ」


「Oh!!」


 マイケルは口をあんぐりと開け、まじまじと俺を見つめた。


「本当ニ?本当にシュウカツで困ってル? シュウカツ成功させたイ?」


「本当だよ。早く就活を成功させて楽になりたいんだ」


「……オーケー。タケル、3日後に大学の体育館裏に来てくレ。その道のエキスパートを連れていくかラ。すぐに楽になれル」


「え、マジ? ありがとう!」


 これで就活が上手くいくかもしれない、と俺は喜んだ。


***

 3日後。体育館裏に行くと、そこにはマイケルと背の高い黒人がいた。身長が2メートル近くある黒人の手にはナイフが握られている。


「ま、マイケル? これはどういう……」


「シュウカツ、つまり終活をどうしても成功させたイ。イコール自殺したいってことだよネ。安心しテ、この人はエキスパートの殺し屋、一瞬で楽に殺してくれル。それでは先生、よろしくお願いしまス」


「OK」


 俺が否定する前に黒人はすっと距離を詰め、俺の心臓をナイフで貫いた。


 就活と終活を勘違いしていたってことか。なんて恐ろしい男だ、マイケル……。消えゆく意識の中で、俺はマイケルの表情を捉えた。願い事を叶えてあげた、と勘違いしているマイケルは晴れやかな笑みを浮かべていたのだった。



                         完




               

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