間章 血縁は探す


 不慮の火災で姉と嫁ぎ先の一族全員が亡くなった。

 領主…姉の旦那は行方不明。恐らく亡くなっている。

 領主の面目と威厳、次期領主が決まるまであくまで行方不明扱いなんだろう。


 その訃報が届いたのは、亡くなってから一週間後のことだった。

 あたしはすでに寮制の学校で生活していて、しばらく姉には逢っていなかった。


 最後に話したのはいつだっけ?長期休みの時だっけ?

 その時には旦那さんとも話したっけな。

 ちょっと頼りなさそうだけど、姉を大事にしてくれそうな男だった。

 幸せな家庭だった筈なのに、どうして…………。


 その時の記憶はあまり覚えていない。

 休みの申請をして、急いで村に戻って…。遺体がない墓に花を添えて…。

 花屋の跡は、近所の人が弔い替わりに綺麗にしてくれていた。

 枯れてしまった花とかは捨てられ、空の花瓶や水桶や小道具、作業台だけが残っていた。

 土地の相続は自動的に私になったので、とりあえず自分が学校を卒業して村に戻ってくるまで建物はそのままにする様にお願いした。


 そんな煮え切れない事件から、はや四か月。また長期休みに入った。

 悲しみを薄める様に勉強に明け暮れ、あっという間だった。

 また村へ戻ることになり、気が重くなる。

 ずっと寮にこもるのは寮母さんにも心配をかけるし、残った花屋の掃除もしないといけない。

 あの田舎村ならまだ事件も平行線で、新しい領主も見つかっていないだろう。

 正直、乗り気がしなかったが、仕方ない。



「あ、寝て、た…?」



 作業台に突っ伏して寝てしまったようだった。

 姉を亡くした時の夢を見た。おそらく、村に戻ったせいだろう。


 ……外は明るい。いつの間にか朝になっていたようだった。

 ぐぐ…と背伸びをして、体をほぐす。

 長い黒髪を適当に梳かして身支度を整える。


 頭がぼうっとしていたので、昔から馴染みのある喫茶店で軽食をとることにした。

 たしか、姉とその旦那はそこで結婚することを決めたんだっけな…。

 外は雲一つないほどいい天気で、若干肌寒い。冬が近づこうとしていた。

 花屋からさほど遠くない場所に喫茶店はある。変わらない外見で、少し安心した。



「………?」



 すでに喫茶店には誰かいた。

 広くない村だ。村人の顔はだいたい覚えているが、あの二人は初めて見る。旅行者だろうか?

 男女のペアで、何やら話し込んでいる。


 ——、火災、行方不明…。レイモンド、シェイナ。魔術的観点から…、

 そんな言葉が耳に入った。



…?」



 気付いたら、二人の傍に立って話しかけていた。


「すみません…」

「「————?」」


 唐突に声を掛けられた二人は同時に顔を上げる。


「立ち聞きする訳じゃなかったんですけど、そのお話、詳しく聞かせてくれませんか?」



 二人は、あたしの顔を見ると驚いたように目を見開いていた。

 きっとこれは、運命だろう。謎の直観が、私に囁いていた。




 そしてその後…厳密に言えば翌日、まだ靄と露が広がる早朝。あたしは遺体がない姉と旦那の墓前で、あの赤い髪の男と出逢うことになる。







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