間章 よそ者は探す
「——はぁ、一週間の滞在か」
「仕方ありません…」
場所は変わって、あの舘の近くにある村の喫茶店に、被害者であるアルドとコヘットはいた。
彼らはある事情でこの村に滞在しなければならない。
あの殺人事件のあと警察を呼んで舘に戻るとそこには舘なんて建っておらず、紅実もシェイナも、死体の筈だったレイモンドもいなかった。結局警察には相手にされず、この話は不可解なままの事件として幕を閉じる。
——筈だった。
「貴方が、あの錬金術師とつるんでいたなんて」
じろりとコヘットが睨む。
「俺はただ、『婚約者の治らないと言われた傷を治してあげるから、一夜だけ舘に来てほしい。そして次の日の朝、君と客人二人で警察を呼びに行くように促してほしい』って紅実から交換条件を持ち出されただけだ。『終わった後は警察にこのことを伝えても良い』とも言われてたしな」
悪びれる様子もなく、アルドは手元にあるコーヒーカップを口へ運ぶ。
……そう、舘が在った場所に戻った直後、アルドは正直に警察へ自分の素性と舘での役割を伝えたのだった。
そして事態は急展開。調査は別の視点…魔術的な視点から本格的に調査が始まることになったのだ。
「どう考えても魔術的な作意が見られますし、このことを踏まえると過去にも似たような事件があったかもしれない…。一週間後には専門の調査官が来ます。私たちは事情聴取のため、まだこの村から出られない。貴方はともかく、私…本当に巻き込まれただけじゃないですかぁ」
項垂れるコヘットに、さすがにアルドも同情した。本当に運がない。
「…婚約者さんの傷は治ったんですか?」
「おう。アイツが手をかざしただけでパッと治った。『二度と歩くことは出来ない、治らない』と言われた両足の傷がだぜ?そんなことされちゃ、アイツのよくわからん頼みを聞くしかないだろ」
「そう、ですね。私でもそうします」
「んな顔すんなよ。まぁ、きな臭くなってきたけどな」
話題を変えるようにアルドは言う。
事件から三日経った。その間、この二人はただ村の中で悶々と悩んでいたわけではない。
「この村…グラヴべ村、現在領主が居ないみたいなんです」
「あぁ。しかも、聞いた話じゃ四か月前に領主が住んでいた舘が火災で全焼。よそ者の俺らには名前が伏せられているが、使用人も含め一族、そして領主は行方不明だ」
「こういった小さな村は領主が絶大な権威を誇っています。長い間、村を守っているんですから、魔術的な能力も高い。新たな領主が決まるまで、名前すら出すのが憚られるのでしょう」
小さな村ながら、ここは賑わっており村人たちも明るい空気が流れている。すぐ近くの村や街に吸収されそうな村ではよそ者に領主の名前を出すのは難しいらしいが、そのよそ者にも優しい。心の余裕があるのだと察することが出来た。
それも全て、前領主…ひいては長くこの村の平和を築いていた一族の手腕だ。
コヘット達は、警察を舘が在った場所に連れて行った時に垣間見えた一瞬の動揺を、見逃していなかった。
あそこは、火災で全焼した領主の舘の跡地だったのだろう。
無いはずの舘が在った。
そこでシェイナ、紅実、レイモンドという人間と一夜を共にした。
しかも殺人事件が起きた。
事情を知っている村の者が聞いたら混乱するのは当たり前だ。
「でもおかしくありませんか?」
「何が」
「紅実とやらは、『警察に話してもいい』と貴方に言ったんですよね?そして私たちを舘の外へ出した。まるで、このことを外部に伝えたかったみたいじゃないですか」
「…だよな。俺もそう思う」
謎が謎を呼ぶとは正にこのことだ。
警察からも、この話は周りに話さないように口止めされている。だからひと気が少ない喫茶店で意見のすり合わせを二人でしているのだが。
「すみません…」
「「————?」」
唐突に声を掛けられ、二人同時に顔を上げる。
「立ち聞きする訳じゃなかったんですけど、そのお話、詳しく聞かせてくれませんか?」
長い黒髪と…ついこの間見かけた、アクアマリン色の瞳が視界に映った。
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