一章 真実を偽る(終)
「こっちです!」
場所は変わり舘の外。
時刻は十一時。なんとかコヘットとアルドは警官を複数人連れて、舘に戻ることが出来た。
「——は?」
「…あれ?」
しかし二人は驚愕し、立ち止まる。
「……舘とはどこですか?」
警官の一人が怪訝そうに問いかける。
そう、今まで舘があった場所には何もなかった。
門も屋敷も庭園も元から無かったかの様に、そこはただの木々が生い茂る森の一部だった。
まるで幻だったかのように、魔術の痕跡も死体の臭いもない。
「なんで…?だって、私たち…」
「…………………」
困惑する二人の表情に嘘ではないだろうと察した警官達は、『事実だとしても、魔術などの専門的な知識を持っている人を呼ばないと』ということで、愕然としている二人に、村へ戻るように促した。
・・・・・・・・・・・・・・
「……」
たった今自分が殺めたシェイナをしばらく見降ろし、写真立てを元の場所に戻す。
割れたのは仕方がない。記憶を頼りに元に戻すことも出来るが、何故か直す気にはなれなかった。そのままにしておこう。
——あぁ、これで何回目だろう。
そう考えていた時だ。
「やぁ、何度目か解らない行為は終わったかい?」
静かな書斎に彼…紅実の芝居がかった高らかな声が響く。
「……終わったよ。また駄目だった」
「それは君が?彼女が?」
紅実は床に横たわるシェイナを一瞥する。
「今回も俺が勝った。でも、負けを認めるかは彼女次第」
返答はとても曖昧な言葉だが、紅実は納得した様で静かに一度、目を伏せる。
「彼女が諦めるまで続けるつもりかい」
「俺にはそれしか方法が思い浮かばない」
「…そうか、なら俺は友人として最後まで付き合おう」
伏せていた黒と金色の
「レイモンド・ハーレー」
紅実の視界の先には……朝に死んだ筈のレイモンドが、傷一つない姿で立っていた。
「…………………」
名前を呼ばれた彼がゆっくりと振り向く。
光を失ったかのように、全てに絶望した深緑色の瞳と目が合った。
前日に見せた気弱なそれでいて真摯な雰囲気は何処かへ消えており、どちらが彼の本質か解らない。
凡人が見せることがない異質さに、人の道を外れていると自覚している紅実でさえ好奇心と恐怖で軽く背筋が凍り、身震いしてしまうほどだ。
「さぁ…少し休んだら、また始めよう」
希望を全てすり減らした仄暗い瞳で、レイモンドは自嘲する様に笑みを見せる。
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