なんなの!?なんなの!?


なんなのあいつら!!


声をかけてきた男達に笑顔でさよならと手を振るも、心の中は大噴火できつく拳を握りしめる。歩調もなんだか荒々しくなってしまった。


私が危険な目に遭ってるのに!


近江涼介は冷たいし!

榛名聖はヘラヘラしてるし!

金髪はバカだし!アホだし!


……ってアレ?


それって割と、いつも通りじゃない?


「なんで怒ってたの?私…。」


急に冷静になって立ち止まる。後ろの人が気づかずぶつかりそうになっていたけど、気にしない。無意識に笑いが溢れた。


そうよ、なんで怒ってたの?奴らが無礼なのはいつものことじゃない。

はー、無駄にエネルギー消費しちゃった。失敗失敗☆


なんだかスッキリして今度は突然スキップなんかしてしまう。


『どうしてそんな顔になっちゃったのかな?』


榛名聖の言葉なんてどこかに飛んでいって、怒りの理由を掘り下げて考えもせず家に帰って、その日はぐっすり眠った。


***


「おはよう♡近江くん、榛名くん。ついでにえーっと、広瀬くん♡」


翌朝、ハリウッドスターの来日ばりに廊下で綺麗に並んで、H2Oの出待ちをしている女子御一行様の鋭い視線を一心に浴びながら、私は3人の前に立ち塞がった。


ついでに〜の辺りで金髪の眉間が一瞬ピクッとしたけれど、それだけで奴らは何も言わずに私の傍を通り過ぎて、各々の教室へと行ってしまった。


かっ…感じ悪ッッ!


あまりに自然な透明人間扱いに、何もできずその場に立ち尽くす。取り巻き達の嘲笑がどこか遠くに聞こえる。口元だけがピクピク痙攣していた。


***


自販機の炭酸飲料のボタンを、怒りのままに拳で殴る。自販機は怯えるように揺れて、何故だか2本も出してくれた。


機械に慰められたって、この気持ちは晴れやしない。乱暴にプルタブを開けて1本目を一気に飲み干す。奴らのせいで午前中中イライラが治らなかった。


昨日“いつも通り”で解決したはずなのに。

でも!!でも…。


「最近は、ちゃんと挨拶はしてくれてたじゃない…」


今度は急にしんみりしてきて俯く。なんでこんな情緒不安定になってるの?私。



『なんでそんな顔になっちゃったのかな?』


榛名聖の言葉が、突然頭の中で弾けて出てきた。


あんた達のせいでしょ?無視なんかするからじゃん。


結構やるなって褒めてきたくせに。

大丈夫かって心配してきたくせに。

いつもは笑いかけてくるくせに。


こんな時は無視って、ないよ。



ぐしゃり、空になった缶が私の手の中で潰れる。


(そうだ、私はガッカリしてる。寂しいって思ってる。)



心の奥でそう呟く声が聞こえて、驚いた。

寂しい?ガッカリ???



え、なんで?

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