27

「あり、…がとう、ね。」


つむじに向かってお礼を言うのも変な感じだけど。面と向かってよりやりやすいか。


『お前、結構やるな』

―嬉しかった。認められたみたいで。


ゆっくりと力強くて、何処か気だるげな双眸が此方へと持ちあがる。ちょっと気まずくて、下唇を噛みしめた。


「――あ?アリがなんだって?」

「何故そうなった。」


信じらんない。私が、この私が勇気を振りしぼって言ったお礼をこんなつまらないボケで流すなんて。


「なんて奴!」

「お前がな。」


近江涼介は嘲る様に鼻で笑う。やっぱり、こいつはやな奴だ。


「別に、礼言われる様な事してねーよ。」

「え…」


こいつ、わかってて…


すでに奴の視線の先は雑誌。…掴みどころ皆無だな。


「そう言えば、なんで私たちがあそこで揉めてるってわかったの?」


疑問だった。だってあそこはここの次位に人の通らない場所だから。それとも、奴らには少女漫画のヒーロー的直感が搭載されてたりするとか?


「紙が落ちてたんだよね~、りょーちゃん。」


いつのまにやらこっちに移動していた榛名聖が私の肩を抱いて、ぐしゃぐしゃになった紙切れを目の前で靡かせる。


「あ…それ…」


慌ててポケットの中を確認。やっぱり、無い。


「こぉんな面白いもの拾ったら行くしかないでしょ~?ね、りょーちゃん。」

「…だな」


小さく頷く近江涼介に榛名聖は満足げな笑みを浮かべる。


「でもって、集団リンチってのも珍しいから暫く見学してたんだよ。」


へんっとでも言いそうなくらい得意げに、仁王立ちした金髪が続ける。


「そんなこと言って~。りょーちゃんが止めなきゃ真っ先に飛び出してってたでしょ、まーくん。」

「なっ…ちげーよ!あれは最前線でみてやろうとだな…!」


微かに顔を赤らめて否定する金髪の頬を、榛名聖が面白がるようにつつく。金髪、やっぱりいい奴。絶対言わないけど。

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