24

一斉に浴びせられる暴言を一身に受け入れる。


「尻軽」「男好き」「最低」


全部全部、正しい。私は彼女らの想い人をたらしこんでやった。



『悔しくねーの?』

―悔しいわけないじゃん。

そうなる様に仕向けたんだ。


『やられたらやり返せばいーのによ』

―やり返すってか、先手を打ってやってんのよ。

すべての女に、仕返ししてんの。


『わざわざ正当化してあげてるみたい』

―正当化してあげてる?あいつらのしてる事を?

それは、違う。



――近江、榛名、広瀬、高橋、澤田…複数の多数派の名前が飛び交う中に、ぽつりぽつりと知らない名前が混じっているのが耳に飛び込んだ。


――誰?それ。私、そんな人知らない。


ここで初めて、自分の眉間がぴくりと攣ったのがわかった。


「人の男に手出すな。」

知らない名前を吐いた女は、こんな台詞を投げつける。


あんたの男なんか、私知らない。



嗚呼、結局。

気になったらその子等の吐き出す言葉しか聞えなくなって、何故かH2Oの言葉が一緒になって頭の中に渦を巻く。


「なんとか言ったらどうなのよ!」


先頭にいる女に、昨日打ちつけた肩を再び押さえつけられる。


「…い」


痛い、痛い。

私、何もしてないじゃないか。


「痛い、離してよ!」


私を押さえつけた女の肩を、思いっ切りを突っぱねる。構えていなかったのか、あっさりと彼女は鈍い音を立てて尻もちをついた。


「確かにたらしこんでやったわよ、だってあんた等どの道盗っただのなんだの言うじゃない!だから…それ通りのことしてやったのよ!」


自分の怒鳴り声に脳が痺れた。この感覚は久しぶりだ。



――悔しい。何もしてないのに言いがかりで責められる事が悔しかった。

なんとか見返してやろうと思った。


自分がこんな風に責められる、正当な理由が欲しかった。



「あんな男共、どうだっていい!ただあんた達女が勝手な思い込みで私の事を悪者にするから、復讐してやろうって…」


止まらない、止まらない。


平然としていた私が急に大声なんか出したから、さっきまで勢いづいていた女子達は唖然としている。そんなの火がついてしまった私にはどうでもよくて、未だ尻もちをついたままのリーダーの横を大股で通り過ぎて、知らない男の名を上げた女の前へと進む。

眼前まで来ると、彼女がヒッと息を飲むのが聞えた。完全に怯えきった顔をしている。


「私、あんたの男に手なんか出してない」


掴みかかってやろうと手を伸ばした、瞬間だった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る