23

***

「藤沢さん?どうしたのボーッとして。」


そっと私の肩に男の手が乗る。


「…あ、ごめんね?ちょっと考え事してたみたい」


困ったように微笑んで見せながら、あからさま過ぎない程度にその手を退かす。


ええっと、この人は誰だっけ。

…ああ、そうだそうだ、生徒会長さんだ。


落としたはいいけど、ちょっと面倒な奴だったらしい。やたら触ってくるし、纏わりついてくる。


もう君の取り巻きちゃん達には復讐し終えたんだから、用済みなのに。ちょっと近づいただけですぐその気になっちゃってさ。


…ほんと、これだから男って。


「先輩、ごめんなさぁい。私、これからちょっと先生に呼ばれてて。」


ほら、さっさと取り巻きちゃん達…生徒会役員のとこにお戻りよ。遠くですんごい睨んでんじゃん。


次に会う約束を取り付けられる前に、私は軽く会釈をしてその場を離れる。次いで向かう先は職員室じゃあない。


ポケットに手を入れて若干くたびれたルーズリーフを取り出す。


(体育館裏。)


―――いかにも、って感じだよね。

ベタベタ過ぎて笑えちゃうよ、ぷふ。


ぐしゃりと紙を握りつぶして、再びポケットの中へと突っ込む。確実に不穏な話なのに、足取りは重いどころかスキップまでしたいくらいだ。


こんな事するのは、またH2Oの取り巻きかな?数がいる分奴らは過激派だから。


――なんにせよ、私は逃げないよ。

呼び出される“理由”があるんだから。



目的地に着くや否や鋭い無数の目玉が私を睨む。なんだかやけに数が多い。軽く1クラス分くらい。やっぱりH2O関係か。


「なんで呼び出されたかわかる?」


恐らくリーダーであろう気の強そうな女子が、仲間たちを掻きわけて私の目の前に現れた。


「…えー…なんでだろ?」


どんなに睨まれようと怒鳴られようと、私は至って冷静。男に向けるみたいな可愛い笑顔だって作れる。女の顔がますます険しくなった。当り前だ。わざと煽ってるんだから。


「アンタが人のモノとるからでしょ!」


追いつめられないように壁際は避けていたのに、結局近くの木に追いやられた。怒りのままにぶつけた女の拳で、軟弱な木の幹が軋む。

慣れ過ぎて慣れ過ぎて、…私の心はその空気にそぐわないくらい平常心だ。


「…なんであんたなんかに会長盗られなきゃなんないの!?」


まるで半狂乱に怒鳴る彼女を私はただただ見つめたまま。


会長?その取り巻き達?確かにファンはたくさんいるみたいだけど、これはさすがに多すぎない?

そんな疑問が解決したのは次の瞬間だった。


「そ、そうよ!なんで澤田先輩がっ」

「高橋君も!」

「近江君だって…っ」


ひとり言い出したら次々に男の名前が飛び出してくる。バスケ部のエース、サッカー部のキャプテン、H2O…どれもこれも私が落とした男共の名前だ。こういうのも珍しい。

ひと呼んで『藤沢姫被害者の会』ってか。


あっはは、すんごいおもしろい。

…群れないと何もできない女子って、ほんっと胸くそ悪い。

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