22
――悔しい?どうして?
表情は多分まだ笑ってる。
「――別に?」
でも、いつもみたいに上手く笑えてる感覚がない近江涼介に負けないくらい、冷たい。冷えてる。
「だって私、やられて当然の事してるんだもん」
「…ふーん」
しばらくして興味なさげな声が聞こえて、鬱蒼とした雑木林の中に溶けた。
どうして、悔しがる必要がある?
本当にぶりっこして、男に近付いてたぶらかしてるんだ。
もう、言いがかりで責められてるわけじゃない。
***
「お前…っ」
自販機前、私の顔を見るなりギョッと双眸を丸める男と、特に動じた様子もなくへらへらと薄い笑みを浮かべる男と対峙した。
一晩経っても引かなかった頬の腫れ。
顔の半分を覆うような湿布を貼っている。ちなみに、肩にも。
ここの自販機コーナーはそれ用のスペースが設けられ、人通りの少ないところにあるためか、私たち三人しかいない。
今日は近江涼介はいないのか。
Oが抜けてH2、水素になった奴らをぼんやり見つめる。
「女の子達にやられたんだって~?大丈夫?」
榛名聖はどうやら知っているらしい。ただ、心配する気もないらしい。
台詞の割に笑顔も口調も脱力しきっている。
「あ…、…お前…お前…ぶ、ブスがさらに増したな!……大丈夫かよ」
金髪は完全に動揺しきっているご様子。
最後の最後、腹話術か!ってつっこみたくなるくらい唇を動かさずに言った言葉に、私は思わず目をぱちくり。
馬鹿…いや金髪…
いや、広瀬ナントカ。
名前が思い出せないけど、アンタ実はいい奴なんだね。
ちょこっとだけ見なおしたから、罵倒を三割減くらいにはしてあげようかなーなんて思った矢先、またブスを連発し始めやがったのでやめた。
「…このくらい、平気だよ?心配してくれてありがとう」
少し肩を竦めて、笑って見せる。だって本当に平気だ。昨日よりは痛くないし。
「やられたらやり返せばいーのによ」
さも当然、といった様に金髪は言葉を投げる。
おいおいおい、何言ってるんだこいつは。
私はちゃーんとやり返してる。なじられるのに見合うだけ、男をたらしこんで、仕返ししてやってる。
「や、…やだぁ、やり返すなんてそんな怖い事…」
まるで冗談を返す調子で眉尻を下げて笑う。
金髪は至極気持ち悪げな顔をして「そーかよ」とだけ言った。
そうだよ、ちゃんとやり返してる。
(私は…私、は。)
いつの間にか私の横を通り過ぎて自販機前に移動していた榛名聖が、こっちに振り向いた。
その顔は、笑ってる。へらへらと。
「そーだよねえ、…仕返しって言うかわざわざ正当化してあげてるみたい。」
「は…?」
何が言いたいんだ。
無意識に拳に力が入る。何にもわかっていないような、…それでいて何もかもを見透かしたようなその笑顔がイヤに鼻につく。
「あ?何言ってんだ聖。」
金髪の怪訝な声音にはっと我に返る。
「んー?…お姫様は優しいねーって言っただけだよ。」
「はぁ?わけわかんね。」
ぼーっとしてる間に榛名聖は自販機の方に向き直っていたらしい。ガコン、と缶飲料が取り出し口に落ちた鈍い音が辺りに響いた。
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