19
ちょっと目を離していたスキに3人の姿は忽然と消えていた。
なんてすばしっこい奴らなんだ。
優雅に歩いてたくせに一瞬でいなくなるなんて、瞬間移動でもしてんのか。テレポーターなのか。
かといって3人の教室を探し回るなんて愚行はしないよ。君たちが大抵教室にはいないのはすでに調査済み。
そして昨日はその居場所を掴んでやったのだ。逃がさなくってよ!
私は意気揚々と例の場所へと走った。
***
旧校舎までの道は森みたいに鬱蒼としている。爽やかさしかない新校舎と、本当に同じ敷地なのかってくらいじめじめしてて少し不気味。
それに旧校舎には幽霊が出るとか変な噂があるから、誰も近寄りやしない。
(存在感抜群のモテ男が隠れるにはうってつけってね。)
そんな気味悪いとこを一人で颯爽と歩ける私ってすごい。可愛くて肝が座ってるなんてほんと尊敬しちゃう。自分だけど。はは、はははは…
なんて思ってる間に旧校舎の裏側に辿り着く。ここから壁伝いに歩けば入口…
「ちょっと」
でたぁああああああッ
肩をがっちりと力強く押さえつけられたのに反発するように、勢いよく肩が跳ねあがる。
でた、ホントに出たよ!!女の人の声だったよね?お岩さんかな。ごめん、私皿は持ってないよ。あああ違うそれはお菊さんか。
ギギギ、と音が鳴りそうなくらい恐る恐る振りかえる。
そこにいたのはお岩さんでもお菊さんでもなく、女のような形相をした鬼…じゃなくて鬼のような形相をした女子御一行様。
「……。」
なんだ、脅かさないでよ。
私とした事がちょっと結構かなり本気でビビっちゃったじゃないのよ。悔しいけどこれは一本取られちゃった。
はぁーっと盛大に安堵の溜息を吐きだすと、私の肩を掴んでいた奴が思いっきり私を壁に押し付けた。
痛い、これはほんっとーに痛い。
油断しきってたからまともに肩を打ちつけた。しかも右ね、利き手の方。
肩に食い込む指を掃おうとしたら、鈍い痛みが走って上手く腕を上げられない。
(これは絶対痣になってるなー…。)
「調子乗ってんじゃないわよ」
「―――っ」
ガン、とさらに押してくる手。痛い、けどコイツらの前で弱ってなんかやらない。
いつもは黄色い甲高い声で絶叫してるくせに、今日の声はものすごく低い。ギンギラと睨みつけてくるその目はどこか血走っていて。
取り巻きの奴らは仁王立ちで、「そーよそーよ」とでも言いたげな表情。
「なんなの?アンタ。
モテるのかなんなのか知らないけど近江君達にまで手ぇだして。」
女の集団に全く動じた様子のない私に、彼女らの表情はますます険しくなる。
…今にも襲いかかってきそう。
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