第2話
「探偵部という部活動は受け入れられません。却下します」
鹿鳴館学園二千人の学生、そのトップに君臨するのは生徒会だ。
そしてその生徒会の長である生徒会長、燕三条瑞希は今日も多数の稟議や申請、その承認業務に明け暮れている。
そして、今彼女が見ているのは部活動の申請書。
申請書に書かれているのは、当然、部活動の作成に関することだった。
部活動名、探偵部。
部長、相生葉月。
目的、鹿鳴館学園の謎を解決すること。
「何だよー、別に崇高な目的まで考えなくて良いって言っていたのは、そっちじゃねえか」
生徒会長の前に立っていたのは、白衣姿の少女だった。
鮮やかな赤い髪をシニヨンにしている少女は、袖の長さが合っていない白衣を着て――要するに腕が通っていない袖をキョンシーのように折り畳んでいるのだけれど――、子供のように文句を垂れた。
ように、とは言ったけれど実際子供であるのは間違いない。
相生葉月は鹿鳴館学園中等部二年生、世間で言うところの中学二年生だからだ。
「……確かに学生生活を楽しくするためならば、多少あらがあっても致し方ない……などと思っていましたし、そういう校則であることは間違いありません。ただし、これはその孔を利用した、いや悪用した手法だと言えるのではありませんか?」
利用ではなく、悪用。
うんうん、確かにその通りだと思うな。
「じゃあ、やっぱり認められないのかよ?」
「実績を上げられるようには見えませんからね」
さらりと言った。
確かに部活動という物は実績を上げるのが一番良いことなのだろうけれど……、運動部なり文化部なり何かしらの大会に出て成績を出すことで、それが部費の配分にも影響してくるのだろう。
わたしだって、それくらいは知っている。
「……それに探偵部に部員は居るのですか。いくら鹿鳴館学園が変わり者だからと言っても、そういう物には合致しないと思いますが……」
「それなら、一人は居るんだよなー。確か二人以上居れば部活動としては成立するんだよな?」
「……校則を読んでいるんだか呼んでいないんだか分からない理解度ですね。結論から申し上げると、二人での部活動結成は不可能ですよ。確かに、二人で部活動は運用出来る、と校則には書いています。しかしながら、それはあくまでも……ワイルドカードに過ぎないのですから」
ワイルドカード。
とどのつまり、裏技。
「ワイルドカードー? どういうことだよ、それって。結局二人より多い人数が居るのかよ」
「部活動に必要な役職は、部長は当然ながら,後はどの役職が必要なのかは知っていますよね?」
「そりゃあ副部長と会計だろ。それぐらい理解しているぜー」
「逆にそこまで理解しているなら、どうして二人では出来ないという結論にならないのですか?」
「……? いやいや、副部長と会計は兼任出来るだろー。大きい部活動ならともかく、今のところはあたしのマンパワーで回る訳だし」
はあ、と深い溜息を吐く会長。
こういう性格だから致し方ないのだけれど、もう少し世間というかルールを知って欲しい気持ちはある。
「一応言っておきますけれど、この鹿鳴館学園は全員が全員貴女のような天才ではないのですよ? だから普通の学校と同じようなルールを設けている訳で……」
「だーかーらー、探偵はあたしがマンパワーで出来るから、それ以外の雑務ぐらい一人で充分だろ、って話だよ。シャーロック・ホームズの助手はワトソン以外に居たか? 居なかっただろ?」
そこでシャーロック・ホームズを持ってくるあたり、どうなのかと思うが。
せめて実在の探偵を出したらどうなんだろうか……。
「そもそも部活動とは、共通の目的なり思考なりを持った仲間を集める場所である訳で……。一人だけの部活動を申請して承認されると思っているんですか」
「意外と学校には事件があるものだぞ? 後は謎とか暗号とかもなー」
話を聞いているようで聞いていない。
「……では、次に実績ですが、何か事件を解決したという実績はないのですか?」
会長は若干諦めモードで話を進めた。
どうやら実績を聞いてから、実際にどうするかを判断するらしい。
合理的だし、時間を効率的に進めるには良いアイディアだと思う。
「それなら、助手に聞いてくれ」
助手兼副部長兼会計兼雑用係のわたしに、会話のバトンが渡される。
唐突ではあるのだけれど、実際のところこういう話は案外第三者から話した方が良いのかもしれない。
「……それなら話をしていただけますか? 探偵部を設立するに値する、事件とその顛末を」
事件と言える程ではないのだけれど……、あれは暗号だったかな?
とはいえ、語るとするならばそれぐらいしかなかったりするのだ。
わたしと相生先輩が出会った、音楽室の暗号とその顛末を。
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