生きるってきめたから

 地平線のずっと向こう側まで広がるグレーの大地には、無数の白線が規則正しく引かれている。その明らかに人工的な地面に、一本の木がアスファルトを豪快に破って生えている。葉はおおよそ365日くらいの周期で色が様々に変化した。深緑に輝いたり、橙や黄に吹かれたり、薄い白色の化粧をするときもあれば、桃のような儚げな色に染まるときもあった。

 近頃は雨ばかり降っている。陽の光が弱まるので、上手く光合成ができないでいた。どれだけ頑張っても思ったようにならないので、木は光合成をするのが嫌になっていた。木は夜が好きになった。夜は光合成をしなくて済む、ただ息をしていればいい時間帯だからだ。全身が濡れたまま、自身が生きるエネルギーを得るためだけに、気孔から酸素を摂取する。聞こえてくるのは、雨粒がアスファルトを叩く均一な音だけ。そんな日々が、何日も何日も続いた。

 

 やがて、晴れ渡った空に朝日が登ってきた。すべての葉で、その光を受け止める。木は二酸化炭素を取り込んで、有機物質に作り変える。さらには、あらゆる生物が欲している酸素と水をも生み出す。植物として生まれた木の、世界における役割である。葉の先から滴り落ちた透明な水滴が、木の姿を映しながら日光を浴びて、七色に輝いていた。幾年もの昔、硬いアスファルトを突き破ったあの瞬間、ここで生きると決心したことを、木は思い出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

短編みかん とだせりな @skam827

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ