第4話 クーデターエンド消滅
私はお嬢様が眠られた後、隣国のとある貴族領まで来ていました。
ここの領主はタイダ子爵という方です。また子爵は領民たちに重税を課しているという噂を聞いたことがあります。
お嬢様の話ではクーデターが起きるまで、まだ一年ほどあるはずですが、私は既にその
それを確認するために、こうしてわざわざ隣国まで飛んできたのです。
ちなみに私は飛行魔法が使えます。
すごい速さで飛べます。
勇者様と魔王を倒した魔法剣士なのですから、これくらいできて当然です。
シルフォード公爵領から隣国までは馬車で一週間ほどかかる距離なのですが、飛行魔法のおかげで一時間ほどで移動できました。
上空からタイダ子爵の領土を眺めながら、ここまでやって来ました。
途中で見つけた村や町の建物は、そのほとんどが酷くボロボロでした。
領主がろくな管理をしていないせいです。街や村を繋ぐ道も荒れ放題で、その付近には魔物の気配を多数感じました。
本来、私兵やギルドで雇った冒険者を派遣して、街道の整備やその付近に現れる魔物を討伐するのはその土地を治める領主の責任です。
ですがここは全くそういう対処がされていないようでした。
こんな有様では商人が安心して往来できないので物流が停滞し、食料などが満足に手に入らない地域もあるはずです。
早急になんとかしなくてはいけません。
タイダ子爵の直轄地であると思われる街の建物は、まだマシな感じでした。
そして街の中心にある屋敷だけは、とても立派な造りをしていたのです。
すぐにわかりました。
あれがタイダ子爵の屋敷です。
時刻は深夜。
私は遠くからでも人の魔力を感じる力があります。その力で私は、人が集まっている場所を探しました。
ここまで酷く町や村が荒れているのですから、領民たちが
「見つけた」
ありました。
予想通りです。
こんな時間に数十人ものヒトが集まっている場所を見つけたのです。
そこはタイダ子爵直轄の街から少し離れた所に位置する、大きめの町の料亭──その
──***──
「あの、お尋ねしたいことがあるのですが……」
深夜だと言うのに、料亭の入口に男がひとり立っていました。
「なんだお前……。こんな時間になんの用だ?」
「
「なっ!? お、お前、どこでそれを!!」
はい、正解。
わかり易すぎです。
もう少し誤魔化すとかしないと……。
ですがこの方も一般の領民なのですから、仕方ないですよね。
「中に入れていただけますか?」
「で、できるわけないだろうが!」
そう言って男が襲いかかってきました。
──***──
「失礼します」
私が料亭の地下に入ると、そこには二十人程の男女が集まっていました。
ここでクーデターの相談をしていたのでしょう。私の来訪に皆さん驚いていらっしゃいました。
「お前は何者だ? 見張りの男がいたはずだが……」
「襲いかかってこられたので、少し眠っていただきました。それよりここでは子爵様へのクーデターを計画している──で、お間違いないですね?」
「なっ!?」
「なぜそれを……」
「お、お前は子爵の手先か!?」
数人が武器を構え、私に向けてきます。
私はお嬢様のためにクーデターを停められればそれで良いので、ここの人たちを全員捕まえてしまっても良いのですけど……。
でも明らかに彼らは善良な領民で、悪いのは子爵なんですよね。
タイダ子爵の肩を持つ気にはなれません。
「ご安心下さい。私は貴方たちの味方です」
私はサリオン。
「ひとつ、私から提案があります」
かつて勇者様と共に魔王を倒し、世界に平和をもたらした──
「
この世界最強の魔法剣士です。
──***──
とある日の夜。
領民を虐げていたひとりの子爵が、クーデターによってその命を失った。
彼は保身のため五百人を超える傭兵たちを自分の街で雇っていた。
しかしその傭兵たちは、領民のクーデターを止めるのに全く役にたたなかった。
クーデターが起きる直前、五百人もの屈強な傭兵全員を、たったひとりで倒してしまう男がいたのだ。その男は覆面を被り、まるで貴族に仕える執事のような燕尾服を着ていたという。
護衛が居なくなった領主はあっさりとクーデターを起こした領民に捕まり、その首を刎ねられた。
翌日、国から軍が派遣され、クーデターは鎮圧された。
鎮圧といっても、クーデターを起こした領民たちが自ら国軍に投降したので、死者はひとりも出ていない。
国軍の兵士が、クーデターに参加した領民たちを手荒く扱うこともなかった。
その一週間後、善政を敷くことで有名な伯爵が、死んだ子爵の領地も統括することになった。
クーデターに参加した領民たちは結局、そのほとんどが罰せられることはなかった。
唯一、子爵の首を刎ねたクーデターの代表者だけは殺人の罪で数日間投獄されたが、その後、国王の恩赦によって解放されている。
民に好かれる伯爵を新たな領主にしたのも、クーデターを起こした領民を罪に問わなかったのも、全て国王の指示だった。
この国はかつて、魔物の大軍に攻め込まれ滅亡の危機に瀕した時、異世界から来た女勇者とハイエルフの魔法剣士に救われたことがある。
国王は深夜に押しかけてきた魔法剣士の頼みを聞くことで、かつての恩に報いたのだ。
レイナの破滅ルートのひとつであるクーデターエンドはこうして、本人の全く知らないところで消滅した。
最強万能なハイエルフ執事は、悪役令嬢のバッドエンドを認めない 木塚 麻耶 @kizuka-maya
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