第5話 いつも通りに
3月になると柴田さんと会える日が減っていく実感が湧いた。職場の皆さんにも移動のことを伝えると、「ここだって人は足りていないのに。館長さんが何を考えているのかわからん。」と怒ってる人もいた。本当にこの場所が好きだなと思えた。
認知症の利用者が多く混乱するといけないので、移動の挨拶はしていいのかわからなかった。
社員さんに聞くと
「どっちでもいいよ。私は、まだ久野さんの引き抜きは諦めてない。だから、また戻ってくるかもしれないからさ!!」と言っていた。
めっちゃくちゃ面白いなーこの人と思っていた。
私は、認知症状の軽い方には伝えようと決めた。
あっという間に最終日がやってきて、いつも通り仕事をした後に帰りのトイレに行きたい柴田さんが立ち上がった。私は近づき一緒にトイレへ行った。トイレに着くと、「また呼んでね」と言って離れた。
バザーがなったので迎えに行き、トイレの帰りで
「うち、4月から移動で他のデイサービス行くの。だから、ここの出勤は今日で最後なんだよね。」と言った。
柴田さんは「どこのデイサービスに行くんだ?遠く?」と。「近くだよ。ここから車で5分くらいだし、市内。」と答えた。
椅子までつくと、柴田さんは目に涙を溜めて「寂しいな」と一言。私もとても寂しく、涙が出そうだが仕事中なので我慢して、「また、人足りない時に手伝いに来るから、すぐ会えるよ。今までの頻度では来ないってだけ。」と伝えた。
「4月はいつ来るんだ。」と言われたが今のところ決まってるのは、柴田さんの利用日以外の日にちだった。でも、臨時で決まる場合もあるので、「まだ決まってないけど、必ず来るから柴田さんも休まず、来てよ!」と伝えその場を後にして利用者の帰りの準備をした。
柴田さんを車に乗せる時に、いつも通りに挨拶してたら「元気でな。久野と会えるの最後かもしれないと思うと寂しい。また来いよ。」と言われ
「柴田さんも元気でね。うちも寂しい。また来るから、喋ろうね。」と握手をした。
車が出発するまで玄関で見送りをし、社員さんにも挨拶しお菓子を渡して3月31日が終了した。
あなたに恋をする はさこ @hasyako
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