第3話 冗談だと思ってたのに

私はいつものように忙しなく業務を片付けていた。柴田さんは歩行時手引きで対応している。柴田さんが席を立ったので私は近くまで行き、「トイレ?」と聞くと柴田さんは頷いた。トレイまでの道のりで、「柴田さんは好きな食べ物あるの?」と聞くと「やっぱり寿司だな」と答えたので、「私も好き!エビが好き」と言った。柴田さんは、「俺もエビとかマグロが好き」と笑顔で返してくれた。

トイレに着くと私は、「終わったらまたボタン押して呼んでねー」と声をかけ、その場を離れた。

3分ほど経つとブーブーっと音がなったのでトイレまで柴田さんを迎えに行く。また、手引きで席まで戻る中、柴田さんは、「美味い寿司屋探しといて。」と私に言うのだ。特に意味はないだろうと思って、またその場しのぎで「わかった」と答えた。

次のデイサービス利用日。

歩行訓練の時、柴田さんに「美味い寿司屋見つかった?」と聞かれた。「美味いって回らないお寿司でしょ?うち、あんまり行かないからわかんない。」と答えた。「俺が昔から行ってるところがある。俺は6貫くらいしか食べれないけど、久野は好きなだけ食べればいい。お金は俺が出すから連れて行ってくれんか?」と言われた。私と行くつもりで聞いてくれていたのだということに嬉しくなったが、同時に連れていくことができないもどかしさを感じた。「すごく行きたいけど、お客さんと出かけれないの。」と言った。

柴田さんは残念そうに「そうか」とだけ答えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る