第2話 忙しすぎて禿げそうなのに

7時間以上8時間未満のデイサービスは、入浴がメインになることが多い。私の職場では、午前中に25名程お風呂に入れる。9時から12時までに25名。本当に芋洗いのようになってしまう。でも、なるべく利用者に満足していただけるように声かけとか洗い方とか注意している。いくら頑張っても文句を言ってくる利用者もいるし、病気の影響で暴力を振るってくる利用者もいる。本当に本当に禿げそうだなって思うくらい、しんどいこともある。

柴田さんもお風呂に入れる。柴田さんは、ありがとうとか気持ちよかったとかは、言わない。でも、笑顔で話してくれる。いくら入浴介助でしんどい状況でも、お風呂場で柴田さんに頼られることは、私にとってとても嬉しいことだった。

ある日、柴田さんが言った「久野、美味いご飯屋どっかにないか?」と。あんまり質問されることはなかったので、「柴田さんのほうがしってるんじゃないですか?」と笑いながら返すと、「知ってても俺は1人で行くことできない」というのだ。どう返していいのかわからないが「じゃあ、ちょっと探してみる」とその場限りの返事をしてしまった。利用者と施設外で会うことは、あまりよろしくないので探しても行くことはできないってわかってる。でも連れて行ってあげたいなと、心の中で思っていた。

この時くらいから、自分以外のスタッフが柴田さんの介助をしてるとずるいなと思うようになっていた。

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