345 慣れ
フレドリクを一目見ただけでカイサとオーセは倒れてしまったので、フィリップはボエルと執事に介抱を任せる。目覚めたカイサとオーセはフレドリクの横顔を見て、またバタンキューだ。
「それにしても、フィリップまで来るとは何か用があったのか?」
そんな中フレドリクの質問が来たのでフィリップは答える。
「あるっちゃあるけど、明日、2人に手紙を届けてもらおうと思ってたんだけどね~……」
「それは聞くのは悪いな。しかし正直、内容は気になる」
「ま、父上に黙っていてくれたらいいかな? 新居が全て整ったから、その報告とお兄様にもお茶会のお誘いをしようとしてたの」
「そういうことか……わかった。父上には秘密にしておく。私にも明日、招待状を届けてくれ」
「うん!」
フレドリクは納得して仕事に向かおうとしたが、フィリップは呼び止めた。
「まだ何かあるのか?」
「明日の予定だけ教えてくれない? 外に出るタイミング辺りが嬉しいんだけど」
「変なことを聞くな……まぁフィリップなら問題ないか。あとでスケジュールを送らせる」
「ありがと~う」
皇太子のスケジュールなんて、機密中の機密。それを欲しても謀反の疑いを掛けられないのは、それほどフレドリクはフィリップを信頼しているのだ。もしくは、取るに足らない相手だと……
こうしてフレドリクは、フィリップの頭を軽く撫でてから執務室の前室から外に出て行ったのであった。
「「申し訳ありませんでした……」」
「大丈夫大丈夫。お兄様を初めて近くで見た人はあんなもんだよ。お兄様も怒ってないから。ね?」
フレドリクショックで倒れてしまったカイサとオーセをフィリップとボエルが背負って庭園に運ぶと、2人はシュンとして謝罪。フレドリクが怒っていないと聞いて、なんとか表情が戻った。
「あとは~……どっか行くとこあったっけ?」
「そうだな……あそこも見せたほうがいいんじゃないか? 皇族専用の食堂。いまからなら予約も間に合うぞ?」
「んじゃ、そんな感じで。それまではボエルがよく顔を出していたところを見て時間を潰そうか」
このあともボエルを先頭にフィリップたちが続き、洗濯場やメイドの休憩場所、隠れて休憩するような場所に足を運ぶ。隠れて休憩していたメイドはフィリップ登場でめっちゃ驚いていたよ。
そんなことをしていたら時間になったので移動。皇族専用食堂ではフィリップの食事風景をガン見するカイサとオーセ。マナーが素晴らしいというよりは、出される料理が気になるらしい。
フィリップが綺麗に食べ終えると、カイサとオーセはボエルに言われた通り動き、皇族専用食堂をあとにしたら、2人のお腹が「キュー」っとかわいく鳴った。
なので、メイド用の食堂に移動。フィリップもいるのでメイド全員「なんで?」って顔で聞き耳立てている。
「はぁ~……あの綺麗な料理……」
「食べたかったな~……」
それなのに2人は目の前の料理を食べながら、先程の豪華絢爛な料理を思い浮かべているので、ボエルが小声で注意する。
「シッ……ここではめったなことを言うな。他のメイドが聞いてるんだ」
「「はあ……」」
「まだわかってねぇな。貴族の女子ってのは、ひとつの噂を大きくしたり、嘘を織り交ぜて広げるんだ。酷い場合は、誰かを
「「はい」」
ボエルの迫力のある言い方に、カイサとオーセも怖くなっている。フィリップは関係ないので、メイドをスケベ顔で見ていたら、好みの体型の女性が胸を揺らして近付いて来た。
「殿下、こんなところでどうしたのですか?」
「ゲッ……ネラさん……」
その人物はペトロネラ。フィリップは胸しか見てなかったから、気付くのが遅れたっぽい。
「私に会いに来てくれたのですか?」
「えっと……うん。そうそう。そんな感じ?」
「ウフフ。嘘でも嬉しいですよ」
ペトロネラとは付き合っている設定なのだから、嫌でも合わせるしかないフィリップ。ペトロネラもズカッと隣に座ってお喋りタイムだ。
すると、ボエルはカイサとオーセの後ろに回って耳元で喋る。
「周りを見てみろ」
「周り? 何か耳打ちし合ってますね……」
「これ、殿下たちのことじゃ……」
「こうやって一気に広がるんだ」
「「こわっ……」」
周りを見渡すと、メイドたちは一斉にヒソヒソ話。隠れてやってるつもりなんだろうけど、まったく隠れきれていない。
貴族の常識を垣間見たカイサとオーセは、この中でやっていけるのかと怖くなるのであった……
ボエルたちが昼食を終えると、また移動。ペトロネラは周りに目があるから終始デキるメイドモードだったので、すんなりとお別れしました。
でも、夜になったら思い出したかのようにフィリップの根城にやって来て、甘々モード。またマッサージするしかないので、カイサとオーセの格好の話のネタになっていたんだとか。
翌日は、何故かフィリップもペトロネラと一緒に馬車に乗って中央館へ。馬車から降りる姿をメイドにバッチリ見られたので、噂はすぐに広がりそうだ。
ペトロネラは仕事が忙しいので、やっと本当のお別れ。フィリップはげんなりしながら前を歩いていたら、ボエルが不思議そうに声を掛けた。
「別に殿下まで一緒に来なくてもよかったんだぞ? あとはオレだけでもできるし」
「あぁ~……そっちは関係ない」
「そっち??」
「あ、いたいた。こっち来て。外に出るよ~?」
ボエルはフィリップが引き継ぎの確認をしようとしていると思っていたけどちょっと違う。フィリップは外に出て少し離れると、指差してカイサとオーセに見るように
「あそこ、お兄様が歩いてるの見える?」
「「カッコイイ~……」」
「そういうことか……」
フィリップがフレドリクのスケジュールを聞いていたのも今コソコソしているのも、全てカイサとオーセのリハビリ。
貴族女子とは違い、貴族のイケメンに慣れていない2人にフレドリクは猛毒。だから遠くから見せて慣れさせようとしているのだ。
「ちょっとずつ近付いて行くからね~?」
「「はいっ!」」
この日は引き継ぎの合間に、フレドリクを追い回すフィリップたちであったとさ。
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