346 ご招待
フレドリクの顔をカイサとオーセに慣れさせるために出待ちを何度かしていたら、途中から近付き過ぎてフレドリクにバレていた。
なのでフィリップは手を振ったり近付いて喋ったり。一日に何度も見たおかげか、カイサとオーセも接近しても倒れることはなくなった。
「アレこそ皇子様だよね~?」
「ね~?」
「……僕は??」
「「で、殿下は……」」
「僕、第二皇子だよ!?」
「ブッ! あははははは」
そのせいで、フィリップは皇子の座から転落。ボエルには、2人の顔にエロガキって書いているように見えたから腹を抱えて笑うのであったとさ。
根城に帰宅してもフィリップは不機嫌だったので、カイサとオーセはマッサージでご機嫌取り。フィリップはすぐに機嫌はよくなったけど、「カッコイイ」と無理矢理言わせているから2人は面倒くさそうだ。
翌日はフィリップがなかなか起きなかったので、ボエルは2人を連れて朝のお仕事。もうしばらく付き添うことになっている。
そうしてお昼になると「いい加減起きろ」とフィリップを起こし、みんなでランチ。そこでカイサとオーセが微妙な顔をしていたので、フィリップは聞いてみる。
「なんかあったの?」
「「えっと……」」
「なに言われても怒らないから、気にしないで言って」
「「はあ……」」
覚悟が決まったカイサから今日の出来事を語る。
「偉そうなメイドの人に絡まれまして、ボエルさんが『子犬が増えて散歩が大変ですわね~』とからかわれました」
「他にも『カルガモの親子に見えましてよ。オホホホホ~』と笑われました」
「ブハッ! もう無理! あははははは」
「なんでボエルが笑うの!? ボエルが言われてたんでしょ!?」
嫌味にダメージを受けたのは、背の低いフィリップ、カイサ、オーセ。ボエルは笑いを我慢するのが大変だっただけらしい。
「小さくて何が悪いんだよ……」
「「ですよね……」」
この日のフィリップも不機嫌だったので、カイサとオーセと一緒に慰めあったんだとか……
それから数日後、お昼過ぎにフィリップの根城に2台の豪華な馬車を、馬に乗った騎士が囲む集団がやって来た。
門番は何者かを聞くこともなく頭を下げて素通りさせると馬車は直進し、池を右回りに進み、玄関の前に立っているフィリップたちの前で停止した。
「父上、お兄様、お姉様、お待ちしておりました」
今日は皇族をお茶会に招待した日。だからフィリップは家臣一同で出迎えたのだ。でも、馬車からはフレドリクが1番手で降りてルイーゼが2番手だったので、「お前が先に降りるんだよ」とフィリップは思ってる。
「うむ。出迎えご苦労。しかし、サッパリした外観だな」
皇帝はフィリップを労ったあとは、庭等に目を移した。
「どうせ外から見えないからね。飾るのは無駄かな~っと。経費削減になるしね」
「なるほどな。この池は岩で囲ってあるが、何か意味があるのか?」
「これも経費削減かな? 綺麗に整える必要ないし」
「ふむ。その割にはよくできている」
池は日本庭園風。これは経費削減ではなく完全にフィリップの好みで、護衛騎士が苦労して積んだ石垣だ。
「じゃあ、中を案内するね」
フィリップが皇帝の隣に立って歩き出したが、またストップが掛かる。
「どうしてここの門や玄関は、こんなに端に寄っているのだ?」
高貴な人の建物はほとんどが
「都合がよかったってところかな~? 真ん中だと庭を大きく使えないってのもあるかも?」
「ふむ……」
皇帝はまだ納得してはいないが、フィリップに続いて中へと入る。そこで目に入ったのは、直進と左折の廊下。フィリップは幅が広いほうの廊下に左折して、皇帝たちを案内する。
「ここがウチのゲストをおもてなしする場所ね。ちょっと皇族の常識から外れるけど、庭が見えるように座ったほうが、気持ちがいいかも?」
ここはフィリップたちが宴会をしていた場所。全面を透明なガラスを使ってあるから光がよく入り、外にいるのと近い雰囲気になっている。
皇帝たちは風習を気にしながら、カイサとオーセのことも気になるのかチラッと見てから専属従者が引いた椅子に座る。初めて皇帝を見た2人はビクッとしてた。顔が怖いもん。
「変わった庭だな……しかし、どことなく落ち着くから不思議だ」
庭も日本庭園風。さすがに石灯籠までは作っていないが、木や岩が
土の成分を調整して芝生の色を少しでも変えたので、枯山水にギリギリ見える傑作だ。
「庭師が頑張って作ってくれたんだ~。花はないけど綺麗でしょ?」
「うむ。茶会の場所としては、及第点だ」
「きびし~」
皇帝は厳しいことを言っているけど、フィリップの頭を撫で回しているから褒めてるみたい。本当はけっこう気に入ってはいるが、シンメトリーを見慣れているから点数の付け方がわからないのだ。
ひとまずお茶やお菓子が並んだので、皇族全員はペチャクチャお喋り。そうしていたら、ルイーゼが皇帝の視界を遮るように前に出たので、フレドリクが無難に腕を引いて窓際まで歩いて行った。
「フィリップ。馬用の柵が見当たらないんだが……」
そこまで行くと、厩舎の前で放し飼いされている馬が目に入ったフレドリクは振り向いた。ルイーゼは「おっきなお馬さんだ~」とか言ってる。
「ああ~……なんかあの場所から動かないから自由にさせてるの。馬って賢いんだね~」
「そんなワケないだろ。怪我人が出る前に、早急に柵を設置するんだぞ?」
「うん。わかった~」
フィリップが適当に言うとフレドリクは前を向きルイーゼと喋る。すると皇帝はフィリップの脇に手を入れ、膝に乗せると小声で喋り掛けて来た。
「
「あ、うん。聞いてなかったの?」
「妃からは、誰に渡したかは当ててみろと言われていてな。質問も禁じられていたから困っていたのだ」
「フフ。母上、そういうお茶目な一面があったんだ。父上も今までその約束を守っていたなんて、愛していたんだね」
「ああ。大事にしろ。それと、あまり表だって使うんじゃないぞ」
「わかってるよ。まぁ動物と喋ったとしても、みんな僕のこと信じてくれないから大丈夫だよ」
母親の話をしてもフィリップの感情が
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