316 ボエルの訓練
お酒はグラス半分程度ならフィリップも足取りはしっかりしていたので、屋根を飛び交い城壁を飛び越えて難なく帰宅。まだ体は夜型になっていなかったのですぐに眠りに落ち、朝になるとボエルに体温チェックで起こされた。
「やっぱり高い……仮病じゃないよな?」
「なんで疑うんだよ~」
「友達が聞けって言うから……」
「そいつらに言っておいて。つぎ疑ったら死刑って」
「言えるか!」
ボエルはフィリップの命令にツッコンだら掃除を始めたので、フィリップは声を掛ける。
「ねえ? 向こう行かないの??」
「向こうって……新居か??」
「うん。僕は寝てるからやることも少ないでしょ?」
「新居に行ってもやることねぇからな~……」
「いっぱいあるじゃん。近衛騎士になるんだから体力作りとか。友達と乱取りとかしたら? 新居の庭なら充分スペースあるでしょ?」
「お……おお! いいのかそれ??」
「大人しく寝てるから大丈夫。軽食と飲み物だけ用意しといて。戸締まりだけは忘れないでね」
「わかった!!」
ボエルはせめて掃除だけはと急いでやって出て行く。そのフィリップは厄介払いができたと心地良く眠りに就くのであった。
それから3日、ボエルは毎日体を動かしているからかすこぶる機嫌がいい。ちょっと話を聞いてみたら、フィリップは少し心配なことがある模様。
4日目はお昼すぎに起きたフィリップは、身支度を自分でして部屋を出た。たまに人と擦れ違うとヒソヒソ「ついにメイドに捨てられた」とか言われていたけど気にせず歩き、人の目がなくなった瞬間に隠れて移動。
そして屋根伝いに走り、やって来たのは新居のバルコニー。そこに着地したら、中では大工が作業中だったけどまだフィリップに気付いていないので、バルコニーの手摺りに腰掛けて下をよく見る。
「立て! オレはまだまだ戦えるぞ!」
そこでは、ボエルが護衛騎士たちをボコボコにしている姿。予想が的中したから、フィリップも頭を抱えたよ。
「ボエル~。イジメ、アカン」
「でででで、殿下!?」
部屋で寝ているはずのフィリップが突然バルコニーの手摺りに座っていたので、ボエルも焦って走り出した。
「あぶねぇだろ! そんな所に座るな!!」
「いまから落ちるから、ちゃんと受け止めてね~?」
「落ちるな! 動くな! すぐ行くから!!」
「さ~ん、に~、い~ち。ドンッ!」
「殿下~~~!?」
ボエルの待ったは聞かず、フィリップはカウントダウンしてから落下。ちゃんと受けやすいように体勢を横にしていたから、ボエルは綺麗にお姫様抱っこで受け止めるのであった。
「あ、あっぶねぇ~……」
「アハハ。さすがボエル。衝撃も全然なかったね。アハハハハ」
ボエルが尻餅突いて額の汗を拭っているのに、フィリップは馬鹿笑い。ボエルの腕から抜け出すと、手を貸して立たせた。
「なんてことすんだよ!」
「階段使うの面倒だったの。それよりボエル……これはどういうこと?」
「こ、これって……??」
「僕の騎士がボロボロじゃん。完全にやりすぎ」
「いや、これは……久し振りだったから楽しかったみたいな??」
「そんなことされたら、新居の改築が遅くなるでしょ~~~」
「す、すまん??」
護衛騎士はクマ女を止めてくれたと目を輝かせていたけど、フィリップは作業員として扱っていたので目の輝きは消え、ボエルも謝罪が疑問形になってる。
「まぁ僕もクマに首輪を付け忘れてたのも悪いとは思うけど……お前たちもなんなの? ボエル1人に何いいようにやられてんだよ」
そんな空気だけど、フィリップは不機嫌な顔で前に出た。
「そ、それは……ボエルが昔より強かったから……」
「それでもだよ。今まで何してたんだって話。騎士団ではどんな訓練してたの?」
「だいたいが……」
フィリップが雇った護衛騎士の所属していた隊では、だいたいが上級貴族のヨイショ要員。その上の指示で、上級貴族が気分良く戦えるように接待したりパシりのようなことばかり。
それが気に食わない場合は、連帯責任でマラソンみたいなことをさせられてばかりいたらしい。
「腐ってんな……てか、カイはどうしたの? だいぶ前に騎士団で見たよ??」
「カイ様がいる間は、上級貴族は息を潜めていたので……近衛騎士に行ってからは、元の状況に戻りました」
「アイツ~……改革は最後までやって行けよな~……チッ。もういいや。お前たちの話に戻そう」
フィリップは全員目の前に座らせると今後のスケジュールを決める。
「午前と午後で訓練する人を分けようか。午前の部は基礎的な訓練。午後の部はボエルと実践訓練を毎日交互にしよう。訓練がない時間は、肉体労働ね」
「「「「「はっ!」」」」」
「ボエルもわかった? しごくのはいいけど時間は守るんだよ? あと、1日は完全に休みを取ること」
「わ~ったよ。ちょっとテンション上がっただけだし」
ボエルからも返事をもらったらフィリップを円陣を組ませる。
「いい? 僕の護衛は永久じゃない。お前らを騎士団に戻す時には、僕もついて行って上級貴族をボコボコにしてやる。その力をここにいる間に付けろ!」
「「「「「はっ!」」」」」
「上級貴族をブチのめすぞ~~~!」
「「「「「おお~~~!!」」」」」
こうしてフィリップに鼓舞された護衛騎士は、よりいっそう訓練に力を入れると心に誓ったのであった……
今日のところは護衛騎士はもうクタクタだろうから、フィリップはボエルを連れて帰ったあと……
「なあ? 上級貴族をブチのめしたら、オレたちどうなるんだ??」
「たぶん……殿下が守ってくれるんじゃないか?」
「守ってくれなかったら?」
「そりゃ~……いまより酷いことになるだろうな……」
「「「「「殿下を信じて大丈夫なのかな~??」」」」」
護衛騎士は不安でいっぱいになっていたのであったとさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます