315 初めてのお酒


 新居の改築を始めた次の日、今日も護衛騎士たちはフィリップを迎えに来たのだが……


「あれ? 殿下は??」

「あぁ~……殿下、熱が出たからしばらく外に出れないって」


 フィリップは病欠。なのでボエルが対応することになったんだとか。


「本当に病気なんだよな?」

「たぶん……大事な時には治るけど……」

「絶対、仮病やん!?」


 護衛騎士たちに早くも仮病がバレる。ボエルも仮病の可能性が高いとは思っているけど、本当に熱が出ているのだから、不本意ながらフィリップを擁護する側に回るのであった。



 その日の夜は、ペトロネラも体調不良と聞いていたから訪ねて来ない。ボエルも部屋から出て行くと、フィリップは夜の街に繰り出した。


「待ってたわよぉ~」

「どったの??」


 久し振りだったので、今日はキャロリーナの機嫌を取っておこうと奴隷館を訪ねたら、珍しくフィリップの前で急停止。


「聞きたいことがあったのぉ~……でもぉ、その前にぃ、いい~?」

「その程度の話?」


 いきなりむさぼり食わないからフィリップも大事な話だと思ったけど、結局貪り食われてから本題だ。


「卒業式ぃ、酷い答辞を読んだんだってぇ?」

「答辞? てか、誰から聞いたの?」

「貴族のお得意様よぉ。ここ最近、貴族が通うような店わぁ、みんな大荒れらしいわよぉ~」

「なんで荒れてるんだろ……涙涙の式典だったのに……」

「嘘ばっかり書いてたらしいじゃなぁ~い? そんなので泣かされたらぁ、誰だって怒るわよぉ~」

「あ、もうバレたんだ。プププ。いや~。僕、全然思い出ないのにやらされたから、腹いせにね。プププ」

「こんなところにぃ毎晩のように来てるからよぉ……」


 卒業式の件は、キャロリーナもフィリップが酷いことをしたから説教しようと思っていたけど、フィリップが悪びれることなく笑うので諦めちゃった。


「まぁそのうち収まるんじゃない?」

「そうねぇ。今日なんかぁ、貴族が集まって嬉しそうにお酒飲んでたしねぇ」

「なんか嬉しいことあったの?」

「殿下が牢獄送りになったってぇ……さすがに嘘よねぇ?」

「あ、もうその噂も流れてるんだ」

「本当だったのぉ!? なんでここにいるのぉ!?」

「落ち着いて。ちゃんと説明するから」


 キャロリーナ、二度ビックリ。フィリップが牢獄にいるのが事実なら、脱走したことになるもんね。

 キャロリーナが「脱走を手伝ったら打ち首」とかブツブツ言うので、フィリップは被せ気味に卒業からの出来事を語る。


「引っ越し先がぁ、いわく付きの建物だっただけなのねぇ……」


 フィリップがきっちり説明しても、キャロリーナはまだ疑った目をしてるな。


「そそ。卒業したから大人扱いされてるの。人とかは自分でなんとかしないといけないから大変だけど、仕事しなくていいしお小遣いもくれるから天国だよ」

「そんなのぉ、よく陛下がお許しになったわねぇ」

「ほら? 僕、政略結婚が決まってるって話したじゃない? いまはちょっとこじれてるか、ら……ごめんなさい……」

「もおぉう。危険な話はやめてってぇ言ってるじゃなぁ~い」


 またしても、フィリップは機密情報を漏らしちゃったので平謝り。キャロリーナには候補者の名前が数人浮かんでしまったので、頭を振って蹴散らして、話題を好きな話に変える。


「それにしてもぉ、大人ねぇ……」

「どこ見てるの? もう15だよ??」

「ツルツル……ちっちゃい……」

「泣くよ? 気にしてるんだからね??」

「合法ショタなんてぇ、なんて最高なのぉ! もうそれ以上大きくならないでぇ!!」

「どこでそんな言葉覚えたの??」


 最初はフィリップのアソコを見ていたキャロリーナ、フィリップの全てをひっくるめて大好きみたい。

 確かにこの世界では15歳は大人扱いだけど、元の世界では完全にアウトなので、フィリップは「全然合法じゃないのにな~」と思いながら身を任せるのであったとさ。



「そうそう。殿下の卒業祝いをしようと思ってたのぉ」


 ショタ成分を絞り取ったキャロリーナは裸のままボトルを取りに行き、カラッカラのフィリップの前に置いた。


「お酒か~……」

「城では前から振る舞われてるんでるんでしょぉ? 殿下と飲むのぉ、楽しみに待ってたのぉ」

「ううん。まだ飲んだことないんだよね~」

「そうなのぉ? 意外ねぇ」


 キャロリーナ曰く、貴族社会ではパーティーが多いから、15歳になる前からたしなむ子供も多いそうだ。


「ほら? お酒って失敗談が付き物じゃない? 酔った勢いで知らない女をはらませたりしたら大変だからね。それに、めちゃくちゃ弱い可能性があるから、目が覚めたらお昼でしたじゃ洒落にならないもん」

「だから一滴も飲まなかったのねぇ……」

「ま、キャロちゃんなら信頼できるからいっか。練習程度に飲んでみるよ。あ、今日は安物にして、そのお酒は取っておいて」

「ちょっと待ってねぇ」


 今日のところはグラス半分程度の乾杯。それでも夢が叶ったとキャロリーナは嬉しそうに、ワインをガブガブ飲むのであった……


「全然、顔にも出ないね……」

「ウフフゥ。飲み比べで負けたことないのよぉ。そのおかげでぇ、体も使わず売上ナンバー1を叩き出したこともあるのよぉ」

「マジか~。色街の申し子みたいな逸話だね……他には他には~?」


 酒豪キャロリーナの豪快なお酒談義を聞いたり、頼み事をしたりしてから帰るフィリップであった。

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