317 人探し


 護衛騎士のスケジュールを決めたフィリップは、ボエルの背中に乗って帰宅。バルコニーから落ちたのは熱のせいとか言い訳していたけど、「自分から落ちただろ!」とボエルに怒られていた。


「だって~。絶対にボエルが受け止めてくれると信頼してたんだも~ん」

「まぁ……信頼されるのは従者としては悪い気はしねぇけど……」

「従者としてじゃなくて、どちらかというと騎士としてかな? ボエルは僕のナイト様だ」

「やめろよ~。まだオレ、騎士爵もらってねぇぞ~?」

「また首締まってるから!?」


 ボエルを褒めたこと、また失敗。どうやらボエルがデレると肩を組んで首まで締めるらしい。

 その死に掛けているフィリップはチョロイとは思ったけど、毎回首を絞められるのは苦しいので、もう褒めないほうが身のためだと学んでいた。


 フィリップのことを疑っていた護衛騎士はどうなったかというと、次の日からボエルにしごかれていたので余計なことを考えている時間もないみたい。

 それでもスケジュールがあるので前日よりは格段に体の負担は減ったから、フィリップのこともちょっとは信頼したんだとか。


 そのフィリップはまた仮病に突入して、フレドリクがいなくなった夜の街で遊んでばかり。1週間振りにキャロリーナに会ったらむさぼり食われてグロッキー状態だ。


「殿下の探していた人ぉ、2人ほど候補が見付かったわよぉ」

「あ、思ったより早かったね。酒場の人のほうが早いと思っていたよ」

「素人と一緒にしないでよねぇ」


 何やらフィリップはたくらんでいる様子。キャロリーナは人探しのプロも手駒にいるらしいので、フィリップの難しいお願いにも迅速に対応できたのだ。


「でもぉ、実物は見てもらわないとぉ、殿下の挙げた条件と違う可能性はあるのよねぇ」

「まぁ目視だけでは難しいもんね。今度見に行って来るよ。あ、これ、調査費用ね」


 フィリップが白金貨を出すと、キャロリーナは指で摘まんでマジマジと見る。


「なんでそんなに見てるの? 偽物じゃないよ??」

「疑ってると言うかぁ……殿下のお金ってぇ、どこから来てるのかと思ってぇ。8歳の頃からぁ湯水のように使ってるじゃなぁ~い? 陛下からのお小遣いってことわぁ、血税……」

「やだな~。お小遣いは表でしか使わないから心配しないで。夜の街で使うお金は裏のお金だから安心してくれていいから」

「よけい汚く見えるんだけどぉ~??」


 ここに来てキャロリーナはフィリップのお金の出所が心配になったけど、裏金と聞いてもっと心配に。ちゃんと貴族を嵌めて詐欺で稼いだお金と聞いても心配になるだけだ。


「貴族なんて、どうせ汚いことして私腹を肥やしてるんだから、それをみんなに配って何が悪いの?」

「純粋無垢な顔で正義を語ってもぉ、詐欺は犯罪なのよぉ」

「そりゃそうか! アイツらからお金奪うの楽しいのにな~。ゲヘヘ」

「うん。殿下はそっちの顔のほうが似合ってるわぁ。でもぉ、ホドホドにするのよぉ?」


 フィリップの裏の顔まで知っているキャロリーナ、純粋無垢な顔はあざといだけで信じられないみたい。悪い顔で笑うとしっくり来て、フィリップのお金事情はもう聞かないと心に誓ったのであった。


 誰から奪ったのか知るの怖いんだろうね。



 キャロリーナから情報をいただいたフィリップは、さっそく昼型に戻して、2日後のお昼過ぎに行動を開始する。

 やや綺麗目の平民服に着替えたら、茶髪セミロングのカツラを被る。そして城の壁の色に近いマントで頭まで包んだら窓から飛び下りた。


 誰にも見られないように移動して、外壁を飛び越え貴族街に侵入。ここも人に見られないように走り抜ければ平民街に到着。真昼間からこの場所に来るために、フィリップはボエルを訓練漬けにしていたのだ。


 時間短縮で屋根を飛び交い、目的の住所付近になると路地裏から地上に下りた。その時、汚い服の老人に見られたので、フィリップは「シーッ」とやりながら銀貨を投げ渡して口止めする。

 マントをアイテムボックスにしまったフィリップは、路地裏から出るとキョロキョロとして、一軒のカフェに一直線に向かって行った。


「らっしゃい。空いてる席に適当に座って待っていてくれ」


 カフェに入ってキョロキョロしていたら、カウンターの中にいる男がぶっきらぼうに言うので、フィリップは窓際の店内が見渡せる席に腰掛けた。


「お嬢ちゃん。いつもお手伝い偉いね~?」

「それ、やめてって言ってるでしょ。何年通ってるのよ」


 すると、ロングヘアーの少女が常連客に絡まれている姿が目に入った。その少女は会話には塩対応で返し、頼まれたメニューを常連客の前に並べ終わるとフィリップのほうに急ぎ足でやって来た。


「いらっしゃい。メニューは壁に書いてある通りだけど、なんにします?」

「う~んと……ブドウジュースとサンドウィッチもらえる?」

「は~い。マスター」


 少女が離れると、フィリップは後ろ姿を目で追う。しばらくして頼んだ物が目の前に揃ったら、フィリップは少女に無理を言ってみる。


「一緒に食べない?」

「ナンパ? そういうのお断りしてます」

「う~ん……ナンパと言えばナンパだけど、別料金払うよ? いまから銀貨を積むから、充分だと思ったら止めてね」

「うわっ……最低なナンパ師が来た……」


 少女は汚物を見る目になっているので、フィリップは違う手を使う。


「あら? ガードが堅いな~。じゃあ、マスター! 銀貨10枚でこの子の時間売ってくれる?」

「喜んで!!」

「マスタ~~~!!」


 というわけで、マスターから攻めて、少女をムリヤリ席に着かせるフィリップであった。

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