258 二度目の式典


 近衛騎士のスカウトはまだ時間があるので一旦保留。寮に帰った翌日、フィリップの命令でボエルは新しいメイド服に身を包み、校舎へ向かう。


「その服……お城でも見ましたけど、下はスカートだったような……」


 一緒に登校しているリネーアは、ボエルの服が気になるようだ。


「城のメイド服は新しくなったんだ。スカートとズボンが支給されて、自由に選べるようになってるんだよ」

「そういうことだったのですね。素敵なデザインだと思っていたのです」

「だろ? これ、殿下が作ったんだぞ」

「殿下がこれを??」


 2人の話を眠気眼ねむけまなこで聞いていたフィリップは不機嫌そうにボエルを見た。


「ボエル……父上が作ったの。もう二度と、そんなこと言うな」

「あ……申し訳ありません。失言でした」


 ボエルがしゅんとして謝罪すると、リネーアは空気を読む。


「なるほどです。皇帝陛下が、ボエルさんのような人でも着たいと思えるような服を作ってくださったのですね。さすがは皇帝陛下ですね」

「まぁ……父上が苦労して作ったんだから、貴族もマネしてくれるといいかな? あ、別にズボンは必ずってワケじゃないけどね。冬はあったほうがいいとも思うけど」

「うちはマネしたいと思います。マーヤは皇帝陛下の作った服、どう思いますか?」

「冬にズボンがあると助かります。それにポケットも多いのですね。メイドとして働く者にも配慮してくれるなんて、さすがは皇帝陛下です」

「ですよね? きっと流行りますよ!」


 リネーアが皇帝陛下と強調して言ったので、マーヤもそれに乗っかる。ただ、2人の尊敬の目はフィリップに向けられてだ。


「だよね~? ボエルはやっぱり騎士になったほうがいいんじゃない??」

「謝ってるだろ~。嬉しかったからちょっと口が滑ったんだよ~」

「そんなに気に入ってたんだ。明日はスカート穿いてね~。アハハハハ」


 フィリップが笑えば、失言の話は終了。リネーアたちも釣られて笑い、笑顔で校舎に入って行く一同であった。



 それから1週間、ボエルには新しいメイド服のズボンとスカートを交互に穿かせて登校。いちおう生徒やメイドの反応を見るためって建て前だったので、ボエルも渋々従っている。


おおむね好評ってところかな?」

「ああ。特にメイドからの問い合わせが多い。やっぱり冬場はズボンを穿きたいみたいだな」

「てことは、またモテモテ??」

「はい……彼女に嫉妬されました……」

「浮気? 浮気しちゃう? 浮気相手なら、僕も参加させてよ~」

「するか! 真面目な話してたんじゃねぇのかよ!?」

「真面目に浮気相手とのこと聞いてるんだけど?」

「そういうヤツだったな!?」


 この会話は最初から言ってるように建て前。ボエルがニヤニヤしていたから、浮気していたほうが面白いとフィリップは思っていたのだ。

 残念ながらボエルはいまのところ彼女一筋だったので、フィリップは「バレないって~」っと悪の道に引きずり込もうとするのであった。

 ちなみに新メイド服の感想は、まとめた物を皇帝宛に送っていたよ。フィリップもたまには点数稼ぎしておいたほうがいいと思ったみたいだ……



 そこからは面白い授業がなかったので、フィリップは夜遊びするために仮病。テスト期間とボエルたちとマッサージする時、街に遊びに行く時ぐらいしか体調はよろしくない。

 フィリップが寝ているのだから、ボエルも暇なのか剣の訓練。将来どうなるかまだ決め兼ねているから訓練しているのだろうけど、たまに彼女のカロラにその姿を見せてデレデレしてる。


「ボエルかっこいいでしょ~?」

「はあ……」

「なんでいるんだよ!?」


 フィリップも今日はカロラと一緒に見てる。ボエルがニヤニヤして出て行くのが気になって、隠れてついて行ったみたいだ。

 そんなことをしていたら、あっという間に冬休みに突入。年末年始の皇族のお仕事はどうした物かとフィリップは悩み、やはりフレドリクたちが気になるので出席することにした。


「兄貴もデレデレだな……聖女ちゃんがここにいるの、嫌な予感しかしないよ~」


 今回はフレドリクがルイーゼとしか喋っていないので、フィリップは超ヒマ。それに皇族席にルイーゼが何故かいるから、やっぱり来るんじゃなかったと後悔している。

 それでも出席してしまったのだから、フィリップはボーッと貴族の長い長い行進を上から見ていると、全員揃って皇帝たちからの有り難いお言葉や「たるんどる!」的な長い長い長いお話。


 なんとか睡魔に負けずその話を聞き終えたら、フレドリクがルイーゼと腕を組んで下から見やすい位置にまで移動したので、フィリップは「やめてくれ~!」と心の中で悲鳴をあげた。


「皆も知っての通り、こちらの女性は聖女ルイーゼだ! この度、私とルイーゼは婚約した! 祝福してくれると幸いだ!!」


 フレドリクの自分よがりな言葉に、貴族たちは驚き過ぎて時が止まる。しかしながら、次期皇帝が「祝福しろ」と言っているのだから呆けている場合ではない。

 2秒の沈黙の後、力強いが乱れた拍手と祝福の声で応えた。


「皆の祝福、しかと受け取った。次回の式典の後、盛大な結婚式を執り行う! これで帝国の未来は安泰だ!!」

「皇太子殿下のご結婚と帝国の益々の発展にぃ~! バンザ~イ! バンザ~イ!!」

「「「「「バンザ~イ! バンザ~イ!」」」」」


 こうしてフレドリクを祝福したかどうかわからない貴族たちの万歳が、いつまでも続くのであった……


「全然めでたくないし……こんなこと言ったらまた城の中が荒れるって~~~」


 せっかくメイドたちが仲良くしているのにフレドリクたちのせいで壊されるのだから、フィリップの嘆きは止まらない。だが、その声は貴族たちの大声に掻き消されたのであった……

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