239 久し振りのお散歩
本審査を終えて、予定通りボエルがメイドたちの票を全て受け取ったら開票作業。フィリップはニヤニヤしながら手伝い、ボエルは祈るように作業している。
その結果、メイド長賞に選ばれたデザイン画が、圧倒的多数で入賞。ボエルは心底ホッとしていた。いくら好みの服でも、不正で選びたくなかったぽい。
開票を終えたら、後日、メイドが一番多く集まれる時間に結果はっぴょ~~~う!
「圧倒的多数で、ベアトリス・ユーセフソン伯爵家チームのデザイン画が選ばれたよ。おめでと~う!」
「「「「「おめでとう」」」」」
フィリップが拍手で褒めると、メイドたちも一部を除いて笑顔で拍手。その一部とは、ユーセフソン伯爵家チームのメンバー。全員苦笑いというかお腹を押さえてフィリップの前にやって来た。
「みんなが似合いそうな服を考えてくれてありがとね。これなら父上も僕のこと褒めてくれそうだよ~」
「お、お褒めいただき、ありがとう存じます……」
フィリップは「責任はお前で手柄は自分」とか言ってるようなものなので、ベアトリス35歳も喜ぶに喜べない。コメカミの血管もピクピクしてるよ。
いちおう適当に書いた表彰状も用意していたので、フィリップが差し出してベアトリスが掴んだけど、フィリップは離そうとせずに顔を近付けて小声で喋る。
「ホント、よくやってくれたよ。父上には次のメイド長になれるように推薦しておくね。あ、やりたくない?」
「い、いえ……」
「んじゃ、いつまでもそのままの君でいてちょうだい。下級貴族も平等に扱った君の力、これから必ず必要になるから。ね?」
「はっ……はい!」
フィリップは見てないようで全てを見ていた。このユーセフソン伯爵家チームは、最初は4人で登録し、追放された絵の上手い準貴族を仲間に引き込んでいた。
さらにフィリップの描いた酷い絵から意図を汲み取りメイド服を協力して作り上げてくれたのだから、最大級の評価をしていたのだ。
「それじゃあ、これにてメイド服コンペは閉幕だ。みんなもこの服着てね~?」
「「「「「はい!」」」」」
「まったね~。バイバ~イ」
終わり良ければ全て良し。数日前は不安な顔をしていたメイドたちも、スッキリした顔で新しい制服が完成するのを心待ちにするのであった。
それから3日……
「だらけ過ぎじゃないか?」
フィリップはグデ~ン。仮病も使わず、ずっとベッドの上でひっくり返っているので、さすがのボエルも呆れている。
「だって~。仕事して疲れたんだも~ん」
「ほとんど人任せだっただろうが……」
「だって~。試作品ができないことには父上にも報告できないんだも~ん」
「ああ言えばこう言う……」
ボエルが論破しても、フィリップは次の弾を発射するので追い付かない。
「てか、散歩ぐらいしたらどうだ? ここ最近、ちょっとしか歩いてないだろ? そのままじゃ太るぞ??」
「太っ……太ったように見える??」
「ちょっとふっくらしたかも??」
「マジで!? チビでデブなんて最悪だ~~~」
「じゃあ、散歩しよっか?」
「行ぐ~~~!!」
珍しくボエルの嘘に引っ掛かったフィリップ。身長にコンプレックスがあるので、もうひとつ足すことは心情的に許せないらしい。
ぶっちゃけ、強制力のせいで太らない体質なんだけど、気付いていないからシーッだ。
フィリップが運動に適した豪華な服に着替えたら、久し振りのお散歩。ボエルに早歩きさせて、後ろからつつかれながら城を練り歩く。
メイドたちはその光景を見て「犬の散歩?」とか言ってる。大股で歩くボエルの前をフィリップがチョコマカ歩いてるからそう見えるらしい……
いつもなら庭園ぐらいしか行かないフィリップであったが、今日はダイエットのために少し遠出。適当に歩いていたら、騎士が訓練している場所に出た。
「ちょっときゅうけ~い」
レベルのせいでフィリップはちっとも疲れていないけど、騎士の実力が見たくなったので近くにあるベンチに腰掛けた。
「殿下もやったらどうだ?」
「休憩なんだからイヤだよ。それよりボエルも座りな」
「オレは別に疲れてないから大丈夫だ」
「そういうことじゃなくて、膝枕してほしいんだよ」
「外に出ても寝ようとしやがる……」
せっかくだからとボエルが訓練を勧めても、フィリップはサボることしか考えてない。それにはボエルも呆れ果て、立っているのが馬鹿らしくなってフィリップの隣に座った。
当然フィリップは、すぐにボエルの太ももに頭を乗せて、ダラダラと見学し始めた。
「これって……みんな何してんの?」
「く・ん・れ・ん・だ!」
「え~。剣振ってるだけじゃな~い。もっとこう、血が吹き出すようなバトルとかしないの~?」
「そんな生死を賭けた訓練するか。あと、剣を振るのは大事だ。それができないヤツに騎士を名乗る資格はねぇ」
ちょっとしたボケからボエルの騎士談義が始まってしまったので、フィリップは耳を塞いでやりすごす。そうしていたら、見知った男が目に入った。
「ゲッ……カイだ……」
「どこだ? おぉ~。あんな大きな剣を軽々振ってる。さすがはダンジョン制覇者だな」
「マジで戻って来たのかよ……」
フレドリクの親友カイ・リンドホルムを見て、ボエルの騎士談義が止まったのはいいことだが、フィリップは苦虫を噛み潰したような顔になった。その顔は見えないけど、明らかに嫌そうな声になったのはボエルでも気付いた。
「前々から気になってたけど、殿下ってカイ様のこと嫌いなのか?」
「べっつに~。なんか気に食わない顔ってだけ」
「それを嫌いと言うのでは……」
カイは乙女ゲームの主要キャラだから嫌いなワケはなく、逆ハーレムエンドのせいでフレドリクがまだ強制力に縛られていたから戻って来てほしくなかったのだ。
カイの件に触れるとフィリップは全然喋らないので、ボエルは話題を探す。
「あ、そういえば、コニーも夏から騎士団に入るって言ってたな。会わなくていいのか?」
「コニー……誰だっけそれ?」
「リネーアの彼氏だ!」
「リネーア嬢に彼氏ができたのは聞いたけど……名前は聞いた覚えがない」
「言った! オレもその場にいた! 殿下はモブ君って呼んでただろ!!」
「あ~……モブ君、コニーって名前なんだ。初めて聞いたよ」
「祝勝会で自己紹介してただろ!!」
かわいそうなコニー・ハネス子爵令息。フィリップが唯一喋る男子で何度も名前を聞いているのに、いまだに覚えてもらえないのであったとさ。
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