233 皇帝はやっぱり苦手


 フィリップの悪い噂が流れてから3日。フィリップは仮病と夜遊びを調整して、いつも昼頃に起きる生活をしていた。


「ついに隠し子ができたぞ」


 ボエルは暇なのか、頼まれてもいないのに情報収集してくれている。


「隠し子って……いつ生まれたんだよ。顔を見たいわ」

「オレも見たいって言ったら、もう死んだってさ」

「不憫!? 僕の子供が~~~」

「泣くな。嘘に決まってるだろ。それとも身に覚えがあるのか? ……ないよな!?」

「話に乗ってあげただけでしょ~」


 ちょっとしたボケは、ボエルが心配するので失敗。まだボエルはフィリップの女癖の悪さだけは信用ならないんだって。


「しっかし、あんな噂ひとつで、よくもこんなに話を膨らませられるもんだな」

「これでも第二皇子だからね。外堀埋めたら結婚できると思ってる馬鹿が大勢いるんだよ」

「あ~。狙いは結婚だったのか。そりゃ必死になるか。でもよ~。オレならそんな性悪女、願い下げだぞ。オレでもそう思うのに、そんなことして本当に結婚できると思ってるのか?」

「さあね~……実績あるのかも? 貴族社会は普通の常識通じないもん」

「確かに……話が通じないヤツも多い。常識のない殿下のほうがよっぽど話をしやすいぐらいだ」


 ボエルに常識がないと言われたフィリップはムッとする。


「僕のどこが常識ないのかな~??」

「女女女。あと女」

「ですよね~。僕もそう思いますから、そのへんにしておいてもらえないでしょうか?」


 しかし女と連呼されただけで完敗。フィリップも自覚しているので、すぐに白旗を上げたのであった。



 ボエルの目が冷たいからフィリップは話題を変えようと、胸を触ろうと手を伸ばしたけど叩き落とされて失敗。というかボエルは言いたいことがあったらしい。


「メイドの件、これで解決ってわけじゃねぇだろうな?」


 そう。メイドのストレス問題だ。


「え? 僕の噂でイジメはなくなったなら、それで解決じゃない??」

「んなわけねぇだろ。こんなの一時的措置だ。殿下だってわかってんだろ?」

「えぇ~……わっかんな~い」


 フィリップがわかっているクセにかわいこぶりっこで乗り切ろうとしたら、ボエルがフィリップのあの部分に目を落とした。


「……握り潰すぞ?」

「な、なにを……」

「きん……」

「言わなくてもわかってるよ~~~」


 この言葉は女性に言わせられねぇ。ボエルの口を塞ぐために「何か作戦を考える」と言ってしまうフィリップであったとさ。



 それからフィリップはベッドに横になって考えてるフリをしていたら、ボエルが隣に寝転んで抱き締めたので「そういうことか?」と思ったけどちょっと違う。

 フィリップが持つ丸い玉ふたつをコロコロしてもてあそんでいるのだから、単なる脅しだ。


「や、やめて。怖いから……」

「そのまま寝ようとしてただろ?」

「考えてる最中だよ~」

「途中経過を聞かせてくれ」

「10分しか経ってないから無理だよ~~~」


 フィリップが言い訳しまくっていたらノックの音が響いたので、ようやく開放されたフィリップの玉ちゃん。両手で完全ガードして待っていたら、ボエルはベッドに入って来なかった。


「陛下からだ。いますぐ来いって。なんかやらかしたのか?」

「帰って来てからは……うん。めっちゃ悪い噂が駆け巡ってるな」

「噂だけ聞くとヤバイな~……プッ」

「ボエルもぉぉ巻き込んでやろうかぁぁ~??」

「ゴメン。早く仕度しよう!」


 フィリップは何もしてないと言いたいところだったが、怒られる理由は多々ある。それを笑われたフィリップがおどろおどろしい声で脅すだけで、ボエルもすぐに謝罪するのであったとさ。



 皇帝からはすぐ来いと言われているのだから、フィリップは慌てて服を着せてもらい、ボエルもメイド服にチェンジしようとした。

 しかしそんな時間はないとフィリップに諭されて着替えられず。部屋から出たフィリップは悪い顔してるから、さっきの仕返しで、執事服で皇帝の前に立たせやろうとイジワルしたっぽい。


 そうして執務室に着くと、皇帝の執事からボエルも一緒に入るように促されたから、2人とも驚いた顔になった。どちらもここで待機だと思っていたらしい。

 ボエルは助けてほしそうな顔をしていたが、フィリップはエイラと一緒に入ることもあったから、たいした問題にならないと思って連れて入った。

 でも、皇帝の膝の上で撫で回されるからボエルが笑いそうになっているので、やっぱり拒否しとけばよかったと後悔してた。


「侍女の件、よくやった」


 そんな居たたまれない場面で急に褒められたフィリップはいまいちついて行けない。


「侍女の件って??」

「アガータから聞いている。フィリップの悪い噂を流せたおかげで、ギスギスした雰囲気が無くなったとな」

「あぁ~……」


 ここはボエルの手柄だと正直に言おうと思ったけど、何か目で訴えていたのでフィリップはやめておく。


「たいしたことしてないよ。それに完全に解決したわけでもないし。根本的な解決策を出さないと、すぐに元の状態に戻るでしょ」

「うむ。それは俺も考えている。ただ、罰は最終手段だ」

「お兄様がこないだやっちゃったもんね~」


 またボエルを見たらホッとした感じになっていたのでこれは正解。ボエルは自分で発案して第二皇子を使ったから、おそれ多くて皇帝には知られたくなかったのだ。


「それにしても、似合ったモノだな」


 フィリップの視線に気付いた皇帝が執事服に言及するので、ボエルは気を付けしたまま声を出していいのか悩んでる。


「でしょ? 僕が買ってあげたんだ~……あ、そうだ。これを機に、侍女の服もズボンを採用してみない?」

「どういうことだ??」

「ほら? スカートって冬場は寒いじゃない? それに全力疾走する場面もあるのに、スカートじゃ危ないと思うんだよね~」

「侍女が全力疾走? フィリップがいま言ったふたつのことは事実か??」

「はっ! 寒いし走りにくく存じます!!」


 フィリップは助けたつもりでもボエルに質問が行ったので、「ゴメン」とポーズで謝罪。


「ふむ……言われてみると、仕事に支障が出る場面もあるか……」

「ね? たぶんあのスタイルが伝統とかしきたりになっちゃってるから、誰も変えようと思ったことがないんじゃない??」

「言い出す者がいなければ、変わるわけがないか……うむ」


 皇帝はフィリップを抱いて床に下ろしたので、「用件はメイドの件で褒めるだけだったんだ」とホッとしたのも束の間。


「フィリップに命ず」

「はい??」

「侍女が納得する制服新調案を提出しろ。期日は夏休みの間だ」

「は……はい。謹んでお受けします……」


 こうしていきなり仕事を与えられたフィリップは、皇帝にはいつものようなワガママを言い出しにくいので、受けてしまうのであった……

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