234 メイド服のデザイン案


 皇帝から仕事を与えられたフィリップは、執務室から追い出されたあとは茫然自失。ボエルの声も耳に入って来ず、気付いたら自分の部屋のベッドで寝転んでいた。


「あぁ~。悪い夢見た~。お父さんが僕に仕事しろなんて言うワケないよね~」


 フィリップは額の汗を拭って体を起こした。


「夢じゃねぇし。ほら? 服にシワつくだろ。脱げ」

「バンザ~イ……じゃない!? 現実だった~~~!!」

「どんだけ仕事したくないんだよ……バタバタするな」


 仕事を押し付けられたのだから、万歳なんてしてられない。フィリップはベッドの上で駄々っ子みたいになるので、脱がすのに苦労するボエルであったとさ。



「なんでこんなことに……ボエルのせいだ……」


 楽な部屋着に着替えたフィリップは、グチグチ。


「なんでオレのせいになるんだよ」

「ボエルが執事服で行くからでしょ~。だから父上もあんなこと言い出したんだよ~」

「執事服を着せたのは、殿下だ。それにメイドの服のことも、殿下が言い出したことだ。人のせいにするな」

「ボエルが助けてほしそうな顔するからだよ~。そんな顔しなかったら、話を逸らそうとしなかったも~ん」

「それは助かったけど……あんな逸らし方した殿下が悪い」

「ボエルのせいだ。ボエルのせいだ。ボエルのせいだ~~~」


 これが、第二皇子で、異世界転生者で、魂年齢アラフォー。たぶん、子供の体のせいで思考も子供になってると言いたいのだろうけど、ないわ~。


「もうオレのせいでいいから、仕事はしろよ。てか、陛下の命令でそれを受けたんだから、断れねぇぞ」

「うっ……時間を戻すことは??」

「誰ができんだよ!」


 皇帝を出されるとフィリップも弱い。それでも異世界の魔法に賭けたフィリップであったが、ボエルに現実を突き付けられただけであった。



「ほら? 紙、用意してやったぞ」


 それでもフィリップはふて寝しているので、ボエルは仕事ができるように準備してくれた。デキる執事だ。


「えぇ~。ボエルがやってよ~」


 フィリップはデキない主人だ。


「なんでそこまでやりたがらないんだよ」

「だって~。僕、まだ学生なんだも~ん」

「フレデリク殿下はやってたぞ」


 フィリップは前世で過労死したから仕事をしたくないだけ。言い訳で学生を出してもボエルは簡単に論破。


「そもそも、なんであんなこと言い出したんだ?」

「それはボエルがいたからかな?」

「オレ? オレとメイド服がどう関係してんだ??」

「だから、スカート苦手なんでしょ? 中にはボエルみたいな人がいて、本当はズボン穿きたいのかと思って」

「え? 寒いとか走りにくいとか言ってただろ?」

「それは建て前。父上ではわかりにくいと思ってね。スカートとズボンを選べるようにしておけば、性同一性障害の人でも手に取りやすいでしょ?」

「そこまで考えてたんだ……」


 フィリップの意外すぎる気遣いに、ボエルも感動。ちょっとウルッと来た。


「それなら是が非でも殿下にやってほしい! オレも手伝うから!!」

「いや、手伝うぐらいなら全部やってほしいんだけど……」

「だからな。オレの感動を奪うことを言わないでくれないか?」


 でも、その感動はフィリップに半減させられ、涙はすぐに引っ込むのであったとさ。



 結局この日は、フィリップはやる気が起きずブーブー言うだけで終了。翌日はボエルに無理矢理優しいマッサージで起こされて、朝から勉強机の前に置かれた。


「なんか書けたか?」

「いちおう……」

「んなエロイ服、誰が着るんだよ。メイド服だぞ? 陛下にそれ、見せられるのか?」

「だって思い付かないんだも~ん」


 フィリップの頭の中は、エロでいっぱい。なので服もエロ路線に走っているので、ボエルはフィリップが唯一弱い皇帝を出してなんとかしようと頑張ってる。


「あ、そだ。メイド服持って来てくれない? 参考にしたいから」

「そうだな。ちょっと待ってろ」


 ボエルが自室に取りに行っている間に、フィリップはベッドにイン。帰って来たボエルは「だろうな」と呆れながら抱っこして、また勉強机の前にフィリップを置いた。


「ワンピース型ね……セパレートにして、ズボンだけデザインを合わせたら楽ができるかも?」

「なんか賢いこと言ってる……」


 メイド服を見たらフィリップも楽するアイデアが浮かんだだけなのに、ボエルは感心だ。失礼なこと言ったから睨まれてるけど……


「このフリルとかはなんとかならないか?」

「あぁ~……女子っぽいもんね。無くす方向で……シンプルすぎるかな?」

「オレはそっちのほうが好みだけどな~……あと、もうちょっとポケットがほしい。この服、エプロンに大きなポケットが1個しかないから、イロイロ入れたらぐちゃぐちゃになるんだ」

「だからダグマーは太ももにナイフ隠してたんだ……うん。ポケットは飾りに使えるかもしれないから、いっぱい付けてみよう」


 この仕事は、なんだかんだで毎日暇を持て余しているフィリップには持って来い。ボエルとああだこうだ言いながら、最高のメイド服を下手なりに書き上げるのであった……


「これって……ただの作業服なのでは?」

「うん……女子がこんな服着て働いてるの見たくねぇ」


 ただし、ここには女子視点の心を持つ者がいなかったので、上着にもズボンにもポケットがいっぱいある作業服ができあがってしまうのであったとさ。



「う~ん……」

「またエロイ服書いてるし……」


 ボエルの意見を入れすぎると作業着にしかならなかったので、フィリップは自分で書いて頑張ってる。


「てか、いまさらだけど、絵をもう少し……ゴ、ゴメン」


 それなのにボエルがいらんこと言うのでギロッと睨んだ。


「下手なのはボエルも知ってるでしょ~」

「ゴメンゴメン。昔見たの忘れてた……あ、それならデパートのデザイナーを頼ったらいいんじゃないか? あの時は、綺麗なドレスになってたじゃないか??」

「あぁ~……お城に仕立屋みたいな所があるから、そっちを頼ったほうが早いかも? 皇族の服はそこの人が担当だったと思う」

「皇族専属か……それならいい服作ってくれそうだな。ちょっとひとっ走りしてメイド長に聞いて来る。ここに連れて来ればいいか?」


 ボエルはいまにも走り出しそうだが、フィリップはまだ考え込んでいる。


「う~ん……まだ草案も決まってないしなぁ~……う~ん……これって……」

「別に素人の殿下が全部やらなくてもいいだろ? デザイナーに考えさせたらもっといい服できるんじゃないか??」

「確かに。でも、なんか思い付きそうだった気が……あっ! それだ! 僕がやらなくてもよかったんだ!!」

「いや、ちょっとはやれよ? 聞いてるか?」


 ボエルの質問は無視。しかし顔を覗き込むと答えはなんとなくわかってしまったボエル。


「うわっ……その顔、なんか悪いこと考えてるだろ? これ、陛下の案件だぞ? オレまで巻き込まないでくれよ? 頼むからな??」


 フィリップの顔は、絶対に何かやらかしそうな悪い顔。その顔を見たボエルは、超心配になって自己保身に走るのであったとさ。

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