229 主導権


 日中の町に繰り出したフィリップであったが、酒場のミアに見付かってしまったので、適当なお店に入ってたかられている。赤ちゃんも押し付けられたから、フィリップはあやしながらガツガツ食べるミアを見ていた。


「フゥ~。久し振りに落ち着いてランチできたよ~」

「いまのが落ち着いて? めちゃくちゃ掻き込んでた気がするけど……それも3人分も……」

「あぁ~……娘から目が離せないから、いつも早食いになっちゃうのよね~」

「量は??」

「それにしても、ハタチ君は子供の扱い上手じょうずね~」


 フィリップがちょっと引いてるのにミアは無視。赤ちゃんを奪い取ってあやし始めた。その風景をフィリップは微笑ましく見ないで、「だから最近太ったんだ」と謎解きをしていた。


「そういえば、お昼に歩いてるなんて珍しいね。それに髪の毛……そんな色だっけ?」

「いつもは夜に会うから、黒っぽく見えてるんじゃないかな~?」

「そうかな~? 長さも違う気がするんだけど……触っていい??」

「ダメ!」

「やっぱりカツラじゃな~い」


 こんなに拒否したら正解を言っているようなモノ。フィリップも諦めて言い訳する。


「僕、そこそこいい家の生まれだから、変装してるんだよ」

「やっぱりね~。だと思った」

「詳しく聞かないでね? けっこうヤバイ家だから、僕のことを知ってるってだけで消されるかもしれないから」

「うわっ……よけい気になる……」

「やめときな。その子に母親のいない暮らしをさせるつもり?」

「うっ……それは絶対にできない。わかったわ。今日会ったことも忘れる」


 なんとかフィリップの詮索せんさくを止めたら、ミアは優しいお母さんの顔になって娘の頭を撫でた。


「ところでさっき何してたの?」

「ナンパだよ。昼は獲物がいっぱい居るから楽しいね~」

「夜だけじゃなく昼までナンパしてんだ……こんな最低なお兄ちゃんに嫁いじゃダメだからね~?」

「えぇ~。自分は嫁ごうとしてたじゃ~ん。あ、娘さんが大きくなったら一緒にどう?」

「コロすコロすコロすコロす……」

「ゴ、ゴメン。冗談だから。ね?」


 フィリップが娘にまで手を出そうとするので、ミアは呪術でも使いそうなぐらい「殺す」と連呼するのであったとさ。



 ミアに呪いを掛けられたフィリップは、懲りずに3人娘をナンパして宿屋にイン。夕方まで取っ替え引っ替えしたら、壁を飛び越え自室に戻って来た。


「おかえり~。遅かったな~」

「う、うん。楽しかったんだね……」


 もう暗くなりかけているのに、ボエルは怒ることなく笑顔で出迎えてくれたので、フィリップは調子が狂ってる。いつもなら怒られてるもん。

 そのボエルは聞いてもいないのにスウィートルームデートを楽しそうに喋るので、フィリップは夕食を催促して追い出した。でも、戻って来たら同じこと。ノロケ話はお腹いっぱいだ。


「てか、最近僕としてないけど、もう関係は解消するってこと?」

「そ、それは……」

「続けるんだ……」

「彼女とは攻めるばっかりで、少し物足りないみたいな??」


 というわけで浮気を思い出させて、ボエルの口を塞いだフィリップであった。この日のボエルは、いつにも増して乱れたんだとか……



 その2日後には、後ろ髪引かれまくるボエルを連れて城に帰宅。寮にいる時と打って変わって笑顔が消えた。


「なに~? もう彼女が恋しいの~??」

「そんなワケは! ……ある」

「あんまり好き好きオーラ出しすぎると、主導権相手に握られて無理難題言われるよ?」

「そんなに出てるか??」

「出まくってる。もしも彼女に、仕事と私、どっちが大事って聞かれたらどう答える?」

「彼女に決まってるだろ。仕事も辞める」

「おお~い。極端すぎ。昔の硬派なボエルはどこに行ったんだよ~」


 ボエルが重症すぎたので、珍しくフィリップは説教。昔は仕事を優先して元カノを怒らせた話を思い出させて、このままではのめり込みすぎて破綻する怖い未来を刷り込んだ。


「オレ、今までどうかしてた……」

「やっと戻って来た。てか、彼女、サキュバスか何かじゃないよね?」

「普通の女だけど……尻尾もないし……」

「ま、今度会わせて。品定めしてあげる」

「イヤだ。絶対、手を出すだろ?」

「品定めって言ってるじゃ~ん。ちょっと味見するだけだよ~」

「出す気満々じゃねぇか!?」


 せっかくボエルが普通に戻ったのに、フィリップがいらんこと言ったので元に戻りそうだ。


「ウソウソ。ちょうど会えない期間ができたんだから、いまの内にクールダウンしな。じゃないと、彼女も違和感を感じてるかもしれないよ。こんな人だったかな~? とか」

「うっ……思い出してみたら、けっこう恥ずかしいこと言ってたかも……」

「うん。僕にも『ニャンニャン』言ってたよ?」

「忘れてくれ~~~~」


 ボエル、恥ずかしくなって顔から火をく。フィリップとしてはそんなボエルは好みじゃないから我慢して話を聞いて、通常モードになるまで黙っていたらしい。


「キスしてほしいニャ~ン♪」

「彼女のマネすんな!」

「かわいい子猫ちゃんニャン♪」

「オオオ、オレのマネもやめてくれ~~~!!」


 こうして新しい脅しネタを手に入れたフィリップは、ボエルをからかい続けるのであったとさ。

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