216 前夜祭前


 フレドリクたち4人の殴り合いのケンカを見てしまったリネーアとコニーは、後悔中。なんでこの道を通って馬鹿皇子なんかに声を掛けたのかと悔やみまくっている。


「今日の出来事は絶対に他言無用。もしも喋ったら、僕がどんな手を使ってでも家ごと潰す。わかった?」

「「ははは、はいっ!!」」


 喋るつもりもなかった2人なのに、フィリップが最大限の脅しをするのでおびえまくっているな。フィリップがこんなところにいなかったら、見ることはなかったのに……


「あの……」


 少し落ち着いたらリネーアが手を上げたので、フィリップは顔を緩めて話を聞く。


「フレドリク殿下が、婚約破棄をしてルイーゼさんと結婚すると言っていたのですが……大丈夫なのですか?」


 実のところ2人が怖がっていたのは、殴り合いのケンカもそうだがフレドリクの発言。皇家のスキャンダルを聞いたから、恐怖と心配で震えていたのだ。


「まぁ……心配は心配だね。お兄様が駆け落ちなんかしたら、僕が皇帝やらないといけなくなるし」

「それは殿下にとってはプラスなのでは?」

「えぇ~。面倒。その時は僕も父上を説得するの頑張らなきゃ」

「面倒って……殿下なら優しい国を作ってくれそうなのに……」

「ムリムリ。側室百人どころか千人作って国民を怒らせるだけだよ~……1万人に挑戦しちゃおっかな~? ゲヘヘ」


 リネーアにとってはフィリップは命の恩人だから推したけど、側室の話になったらフィリップにやる気が出たので、なんとしてもフレドリクに皇帝になってもらいたくなっちゃった。


「あの……」


 そんな変な空気に変わると、コニーがそろりと手を上げたのでフィリップはギロッと睨んだ。男が喋り掛けたとかじゃなくてエロイ妄想を邪魔されたから、イラッと来たらしい。

 それで黙りそうになったので、フィリップも何を言おうとしたのか気になって許可を出した。


「殿下は、なんでこんなことが起こると知っていたのですか? 知ってないと、隠れて待っていませんよね??」

「僕にだって情報源があるんだよ。リネーア嬢ならわかるよね? たまに1人で出掛けてるの知ってるんだから」

「アレってそういうことだったのですか……」

「そそ。女の部屋にしけこんでるの~」

「「え……」」


 フィリップのカミングアウトに、リネーアもコニーも聞きたくなかったって顔になった。


「あ、このこともヒミ……どっちでもいいや。どうせそんな噂あるし」

「「はあ……」」


 そして「それはいいんだ~」って呆れた顔で、フィリップと一緒に帰って行くのであった。



 翌日……フレドリクたちのケンカの話題は少し聞こえて来たので、リネーアとコニーはビクビク。4人が顔を腫らして寮に帰って来たのだから、バレないわけがない。

 ちなみに怪我は、ルイーゼがチョチョイのチョイで治して、4人に正座させて説教をしたんだとか。フィリップはその現場を見たかったけど、ルイーゼの狭い部屋の中で行われるから泣く泣く諦めたんだって。


 その噂を聞いたリネーアとコニーは揃ってフィリップの部屋を訪ねて弁明していたけど、婚約破棄の話はなかったからお咎めなし。ホッと胸を撫で下ろして帰って行った。



 フレドリクたち最上級生が卒業まで残り3日。その日のフィリップはダラダラ過ごし、夜になったらイーダの部屋に忍び込んだら、涙ながらのイーダに抱きつかれた。


「殿下~~~……」

「急にどったの?」

「エ、エステルざまが~……うわ~~~ん」

「よしよし。落ち着いてからでいいからね。ベッド行こっか」


 大泣きするイーダをフィリップはあやし、お姫様抱っこで運んでベッドに寝かせると、抱き締めて背中をポンポンと優しく叩く。フィリップは何を聞かされるか知っているから、笑いをこらえてるけど……

 それから十数分後、イーダは喋れるぐらいには落ち着き、真っ赤な目をフィリップに向けた。


「エステル様が、フレドリク殿下のダンスパートナーを外されてしまって……」

「うん。それで?」

「このままでは婚約破棄されると焦って、明日の前夜祭で直接ルイーゼを殺すかも知れないんです……」

「ナ、ナンダッテ~!」


 フィリップ、大根すぎる演技。弁護すると、笑いを我慢しているからこんなわざとらしくなったらしい。


「ど、どうしたら……」

「まぁまだ可能性の話でしょ? お兄様が変なこと言わなきゃ大丈夫じゃない??」

「そうですけど、他の生徒たちも婚約破棄するんじゃないかとヒソヒソ言い出して……」

「それ、だれ情報?」

「ただの噂です。フレドリク殿下とケンカすることが多かったので、エステル様の求心力が減ってしまい……第二皇子派閥の筆頭が、エステル様に婚約破棄されるんじゃないかと馬鹿にしまして……」

「なるほ……第二皇子派閥なんてあったの!?」


 噂の出所がリネーアたちじゃないと安心したのは束の間、自分の派閥があったのかと驚くフィリップ。


「ちなみに僕の派閥って、どんな子いるの? 巨乳??」

「真面目に聞いてくださいよ~~~」


 でも、気になったことは知りたいお年頃。それが不真面目に聞こえた……間違いなく不真面目なのでイーダは頬を膨らませた。


「まぁもしもの時のために手を打っておくよ。パーティーが血で汚れたら残念だもんね」

「それだけですか? 婚約破棄も阻止してくださいよ~」

「まだお兄様は婚約破棄するなんて言ってないじゃない。そんな大事なこと、父上や僕に相談…なしではやらないよ」

「いま、少し間があったような……殿下はもう聞いてるのではないですか!?」

「違うって~。前にも違うことで忘れられていたから、言ってくれるか考えちゃったんだよ~~~」


 フィリップ、なんでも知っていることがあだに。

 先日、逆ハーレムメンバーのケンカを見た時に婚約破棄は聞いたけど、フレドリクの口からまだ聞いていないので、また忘れられているのではないかと自信を無くして間が空いちゃったフィリップであった……

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