217 卒業式の前夜祭
卒業式の前日、最上級生はお昼の間は各々自分を飾ることに力を注ぎ、夕方頃になるとパートナーを伴って体育館に集まり出した。
帝都学院名物、煌びやかな卒業パーティーの開幕だ。
貴族の子供の集まりなのだから、みすぼらしい格好なんてもってのほか。親がこぞって大枚を叩き、タキシードやドレスは超が付く高級品ばかり。
もちろん準貴族や余裕のない貴族もいるので、そこまで値が張る服を用意できない生徒、昨年の服やお下がりの服を着るしかない生徒もいる。その生徒は、お金持ちの格好の的。
このパーティーの主催者は、生徒会。今年は第一皇子が生徒会長をしていることもあり、例年より資金が多く使われているので豪華さも倍だ。
出席者は、警備員を除くとほとんど生徒。帝都学院最後の夜は、生徒だけではっちゃける
今年卒業する生徒のパートナーだけは、卒業生だったり物凄く年上の婚約者が務めることもあるので、一部は部外者。オッサンとダンスする女子生徒は、哀れみと
フィリップはどうやってこのパーティーに忍び込もうかと考えていたけど、第一皇子が出席するのだから絶対参加。ただ、パートナーがいないので、執事のボエルはいるけどボッチだ。
「2人とも、いい感じじゃ~ん」
「「あ、ありがとうございます……」」
ボッチの理由は、モブのコニーにパートナーがいないと聞いたからリネーアを譲ったから。いまだに全校生徒から無視されているらしい。
「リネーア嬢も、モブ君だったら触れられるんだね」
「はい。いつもダンスの練習に付き合っていただいたので……ありがとうございました」
「いや、ボクのほうこそ。こんなモテないヤツに付き合ってくれてありがとう」
「はいはい。モジモジしないの。僕なんか気にせず踊って来なよ。いや、甘酸っぱいとこ見せ付けられるの迷惑だから、どっか行って」
「「そ、そんなんじゃ……」」
「はいはい。僕が行きま~す」
お邪魔虫はこのへんで。フィリップが手を振って離れると、リネーアとコニーは見詰め合い、手を取ってダンスホールに向かうのであった。
ボッチのフィリップが向かった先は、少し高い位置にある特等席にいるフレドリクと、下のフロアにいるエステルがよく見える場所。2人は距離を取り、お互いの仲間とペチャクチャと喋っている。
「なあ? 殿下も誰かと踊ったらどうだ? 申し込みは多いんだから、わざわざ話のネタになることないだろ」
フィリップはパートナーのいる女子生徒からダンスの誘いは多々あるが、一言も発さず手でシッシッと追い払っているので、ボエルも口を出してしまった。
「ボエルがドレス着てくれないから悪いんでしょ~」
「いや、オレのせいにされても……」
いちおう第二候補でボエルをパートナーにしようとしたけど、本人が渋って叶わず。どうしてもドレスは抵抗があるんだとか。どちらかというと、ダンスに誘われるんじゃないかと思って、執事服は脱ぎたくなかったみたいだけど……
「それに殿下とオレじゃあ、背丈が合わないし……」
「悪かったですね~。ちっさくて」
「ゴメン。気にしてたんだ……まだ13歳なんだから、まだまだ伸びるよ。な?」
「慰めないでよ~~~」
あと、身長も。40センチ以上離れているから、ボエルが女性役をやるとフィリップが
それからもフィリップが不機嫌そうにするから「女、連れて来てやろうか?」とボエルが様々な提案をしていたが、フィリップは興味なし。
「別に僕はいいの。忙しいし」
「忙しいって……フレドリク殿下とエステル様を見てるだけじゃないか。うわっ……エステル様、めっちゃ怒ってないか?」
今頃フィリップの見ていたモノに気付いたボエルは、ゾッとするような怖い顔をしているエステルに恐怖してる。
「だね~。
「かわいいとこあるか?」
フィリップは推しキャラフィルターで見ているからむしろかわいく見えるらしい。ボエルは何度も目を擦って見たけど、かわいいところはとうとう見付からなかった。
「あ、そか。エステル様が何かしないか見張ってるから忙しいんだ……」
「そそ。何やらかすと思う~? 毒かな~? ナイフかな~? はたまた暗殺者かな~??」
「楽しそうにするな。んなこと起こったら、パーティーなんて吹っ飛ぶぞ」
「だから、それぐらいの想像はしといたほうがいいって言ってんの。ボエルが止めてくれるんでしょ?」
フィリップが確認を取ると、ボエルはいつかの約束を思い出した。
「まぁ……殿下に飛び込ませるワケにはいかないし……それだったら、いまのうちにエステル様に挨拶して探りを入れたらどうだ?」
「えぇ~。それじゃあ警戒してボロを出さないでしょ~。現行犯逮捕が基本だよ~」
「いや、逮捕しなくてよくないか? 未然に防げば、エステル様の立場も悪くならねぇだろ」
「いやいや……」
2人の逮捕論は白熱。フィリップが泳がせて面白くなった現場を取り押さえたいとか言うから、ボエルが一方的に怒っているともいう。
そんなことをしていたら、会場の灯りが一斉に消えた。
「わっ! な、なんだ!? もしかしてエス…ムグッ」
「大声で変なこと言わないの。お兄様がダンスするだけだよ」
ボエル、早とちり。灯りが消えたことが暗殺者への合図だと思って声が大きくなっていたので、フィリップが後ろから飛び付いて口を塞いだ。
そこに、スポットライトで照らされた特等席から下りて来るフレドリクとルイーゼ。観客はイモッぽかったルイーゼのドレス姿を見て「あの美人は誰だ」って口走っている。
「「「「「おお~」」」」」
そしてスポットライトを独占してダンスが始まると、感嘆の声。ルイーゼはこの日のために毎日猛特訓したので、フレドリクのリードの下、楽しそうに踊っていた。
「アンコール、アンコール」
「「「「「アンコール、アンコール」」」」」
そのダンスが素晴らしかったのか、アンコールが起こるほど。
「いま、殿下が一番先に言わなかった?」
「僕、何も言ってないよ?」
それはフィリップ主導。声色を変えたけど、ボエルにバレかけたな。
「クッククッ……なんだあのダンス。ククッ」
「笑わないの。お兄様が足を踏まれそうになってるけど、上手く避けてるだけだよ」
「ククッ……にしても、踏みすぎだろ……ククククッ」
アンコールは酷い結果。フィリップはこのダンスが奇跡の一回だと知っていたから、物語にないアンコールをやらせたらどうなるか見たかったのだ。
そのダンスはルイーゼが必ずフレドリクの足を踏もうとするので、フレドリクの足が
第一皇子に恥を掻かせるわけにはいかないと、必死に我慢する人々であった。
「ブハッ! もう無理!! アハハハハハハ」
「「「「「ッ!?」」」」」
でも、フィリップが大笑いするものだから釣られそうになったので、外に逃げ出す人や体のあちこちをつねる人でごった返すのであったとさ。
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