215 図書館裏での出来事


 クレーメンス伯爵謀反未遂事件は、全てを知っているフィリップでは面白くないけど、いちおうフレドリクに尋ねてみたら続報が出て来た。

 暗殺業を裏で行っていたクレーメンス伯爵は脅しのネタに、貴族や商人から頼まれた依頼は暗号化して残していたのだ。フレドリクは全ての暗号を解いたらしいので、フィリップは拍手してた。解くの面倒で諦めたもん。

 このことがあったから、フレドリクは裏取りや裁量の決定を皇帝と一緒にやっていたから忙しかったみたいだ。やっぱりフィリップは仲間外れだな。


 フィリップは本人から端的に聞いただけで、エステルに関わりがありそうな最近の日付の証拠しか持ち帰っていなかったからめっちゃ知りたかったけど、あまり前のめりになると勘繰られそうなので泣く泣く我慢。

 ただ、フレドリクみずから喋ったことは興味ないフリして頭の中にメモり、キャロリーナにリークしてた。


「法王がクレーメンス伯爵に殺されたってのは、半分本当だったよ。3人の貴族から依頼されたってのが真相みたい。法王はよっぽど恨まれてたんだね~。アハハハハ」

「教えてくれるのは有り難いけどぉ……それ、あたしにしていい話ぃ??」

「ハハ…ハ……ダメでした……」

「どうしてくれるのよぉぉ!!」


 フィリップ、家族から忘れられていないと自慢するために、機密情報を漏らす。キャロリーナは怖くなって、珍しくフィリップを怒っちゃうのであったとさ。



 フレドリクから聞いた話はイーダにも少しだけリークし、エステルの名前は一度もあがらなかったと報告。帝都学院に通う生徒の親は何人か出ていたってのが決め手となって、イーダもフィリップの「大丈夫」を信じることにした。

 イーダがどう説明したかわからないが、翌日にはエステルが復活。


「ルイーゼさん。いつまで経ってもマナーがなってなくてよ。親の顔が見てみたいですわ。あ、平民では見る価値もありませんわね。オホホホホ~」


 さっそく食堂で1人で食べてるルイーゼに絡みに行って、上機嫌だ。


「元気そうで何よりだね~」

「アレが元気って……止めろよ。めっちゃ怖い顔で笑ってんぞ」


 それを覗きに来たフィリップはのほほん。ボエルは寒気がするほどエステルの顔は怖いらしい。


「さてと……エステル嬢が卒業まで残りわずか。何事もなく卒業できるかな~?」

「なんだその意味深な言い方は……何かあったら、今度こそ殿下が仲を取り持ってやれよ? おい、聞いてるのか??」


 フィリップは次回予告的な言葉が口から出てしまい、それをボエルに拾われてツッコまれたので、恥ずかしそうに自室に帰るのであったとさ。



 フィリップが変なことを言うのでボエルは心配していたが、エステルはルイーゼに嫌味を言う程度。それをきっかけにフレドリクとケンカになることはあるけど、いつも通りなので特には気にしていない。

 これといった事件も起こらないので、ボエルもこのまま卒業だと思っていた矢先、フィリップが書き置きを残して消えた。これもいつも通りなので、ボエルはソファーに寝転んで待ってる。


 フィリップがどこにいるかというと、大図書館の裏。花壇に隠れて、ある人物が来るのをウキウキしながら待っていた。


「殿下……何してるのですか?」

「また隠れてる……」


 リネーアとモブのコニーではない。リネーアはただ不思議に思っただけで、コニーは二度目だから呆れた顔だ。


「シーッ! しゃがんで!!」


 何故か2人が現れて声を掛けたので、焦ったフィリップは頭を低くさせた。


「メイドさんも連れず、こんなところで何してんの?」

「図書館で先輩に勉強を教えていただいていたのです。帰るには少し早かったので、遠回りをしたのですけど……」

「2人でね~……ふ~ん」


 フィリップは2人の関係をめちゃくちゃ茶化したかったけど、リネーアの悲惨な身の上を知っているのでここは我慢。コニーのことはニヤケ顔で見てるけど……


「殿下こそ、いったい何をしていたのですか?」

「か、隠れんぼ……」

「「殿下が……」」


 その顔をやめてほしいコニーが質問すると、フィリップは苦し紛れの言い訳。しかし、2人はフィリップに隠れんぼする友達がいないことを知っているので、ウルッと来てる。


「もう! 2人がいると見付かっちゃうでしょ。どっか行ってよ~」

「「はあ……」」


 納得はいかない2人だが、第二皇子が怒っているので立ち上がろうとしたその時、フィリップは2人に覆い被さった。


「やっぱ、このまま待機。絶対に声を出すな。わかった?」


 急にフィリップの声のトーンが低くなったのだから、2人は怖くなってコクコクと頷くことしかできないのであった……



 フィリップが2人を脅したのは理由がある。


(キタ~~~! 兄貴たち~~~!!)


 フレドリクを先頭に、カイ、ヨーセフ、モンスがやって来たのが目に入ったから。つまり、フィリップの待ち人だ。


(プププ……殴り合いのケンカ始めたよ。いけいけ! ヨーセフ、モンス、根性見せろ!!)


 とどのつまり、乙女ゲームの見逃せないイベントが始まるから、こんな人気ひとけのない場所で待っていたのだ。

 その内容は、逆ハーレムメンバーのケンカ。誰が一番ルイーゼを愛しているかと殴り合っているので、フィリップは興奮してパンチを何度も宙に放っている。


(そこだ! 金的しろ! 目を潰せ! てか、誰か一回ぐらい避けろ!! プププ)


 殴り合いは防御無視。誰かが殴られては、キラキラした汗が飛び散って綺麗すぎるので、フィリップとしては血みどろの戦いが見たいのかな~?


(キタッ! 全員ノックダウン! ワ~ン、ツ~……)


 ルイーゼへの愛の言葉を一言いっては殴り合っていたハーレムメンバーは、何故か輪になって右手にいる者を殴って、同時に仰向けに。フィリップがいくらカウントを取ろうとも、立ち上がらない。


(めっちゃ笑ってる……こんなことしといて、よく和解できるな。僕なら闇討ちするのに……ま、乙女ゲームだもんな)


 ここでケンカは終了。青春っぽいシーンはフィリップの好みではないらしい……それでも違う意味で面白かったから笑ってるな。

 そんなフィリップを他所に、フレドリクたちはルイーゼがどうすれば一番幸せになれるかと話し合い、結論が出ないまま夕日を浴びながら肩を組んで帰って行くのであった。



「アハハハハハ。あ~。面白かった~。後衛のモンスとヨーセフが、なんでカイたちとあんな殴り合いができんだよ~。アハハハハハ」


 フレドリクたちが充分離れた頃に、フィリップは今まで我慢していた笑いを爆発。腹を抱えて涙ながらに笑ってる。

 そんなヒーヒー笑うフィリップであったが、目の端にリネーアとコニーが映り込んだので固まった。


「あ……」

「「あわわわわわわ……」」

「大丈夫かな?」


 そりゃ次期皇帝が友達に殴られていたら、2人も見てられない。しかし見てしまったからには、しばらくあわあわ言って会話もままならないのであったとさ。

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