118 フィリップの不安
「ドキドキしました~」
いきなり夜の探検が始まったクリスティーネは、地下にある隠し通路に入ったところで大きく息を吐いた。
「アハハ。ね? なんとかなったでしょ??」
「なんとかなりましたけど、さっきだけで5回も嘘ついちゃいましたよ。これで私もフィリップの仲間入りです」
「それを言うなら嘘つきの仲間入りじゃない?」
ここに来るまでに、城を警備している兵士と5回も遭遇したのだからクリスティーネはドキドキしていたのだ。言い訳は「忘れ物」一本で押し通り、隠し通路は兵士に待っているように命令してなんとか排除したのだ。
ちなみにフィリップがどうやってここまで来たかと言うと、氷魔法を使い天井に張り付いて先回り。「凹凸もないのに」とクリスティーネに疑われていた。
それからクリスティーネの光魔法頼りにさらに地下に下りたら、見慣れない頑丈な扉があった。
「扉付けたんだ」
「はい。多くの人に知られてしまったので埋める案も出たのですが、歴史的に価値があるかもしれませんので、ひとまず両側に扉を付けて施錠しております」
「なるほどね。危険だしね」
「いま開けますね」
クリスティーネがカギを使って開けてるのに、フィリップがお尻をさわさわするので叩き落とし、文句を言いながら地下迷宮に足を踏み入れた。
そこでクリスティーネにもう2回歌ってもらい、フィリップはメモ。どちらも同じ言葉だと確認したら、フィリップはロープの端を地面に打ち付けて、ショルダーバッグから垂らしながら先を進む。
「あの……そのカバンって、どれぐらいの物が入るのですか?」
「けっこういっぱい入るよ~」
「いっぱいにも限度があると思うのですけど……」
「だって、目印付けたらお宝の場所がすぐバレちゃうでしょ?」
「質問の答えになっていないのですが……絶対にその量はおかしいです!!」
「入る入る」
シンプルにおかしいと言ってもフィリップは取り合わず。ちなみにショルダーバッグの体積を遙かに超えるロープが出ているのは、指輪型アイテムボックス。
指輪をしている左手をショルダーバッグに入れて、ダンジョンで手に入れた長いロープをずっと出し続けているだけだ。足りなくなったら新しいロープを固結びしているので、その都度クリスティーネにツッコまれてるよ。
そんなやり取りをしながら進んでいたら、目的の場所に着いたと思われる。
「行き止まりですね」
「アッレ~?」
「ハズレということですか……それにしても、こんなに複雑な迷路なのに一度も行き止まりになりませんでしたから、それも変ですね」
「僕もそう思う……もう一回歌ってくれない?」
クリスティーネが歌い出すと、フィリップは入口から合わせて視線を送るが何もなし。なのでアンコールして一歩ずつ進みながら周りをよく見ている。
「う~んこれも違うか。いや……」
結局フィリップは入口に戻ったのだが、最初の向きとは違って壁を向いていたので、そこを重点的に調べると、下のところに窪みがあったので手を入れた。
「なんかあったけど……うわっ! 虫!? このくそ!!」
そこでレバーみたいな物を発見したけど、ガサガサと手を
「うわ~~~」
「なに? おお~」
後ろを向くと、壁が自動で開くギミック。ゆっくりと動く壁に、クリスティーネもフィリップも感嘆の声が出てしまった。
自動ドアの先は、一本道ですぐに行き止まりとなったが、台座の上に何か乗っている。
「なんですかこの禍々しい球は……」
「うん……ちょっと気持ち悪いね」
その球は黒すぎて、中に吸い込まれるような感覚に陥るほど。さらにオーラのような物がおどろおどろしく浮かんでいた。
「これはビンゴかも……」
フィリップの予想はこうだ。クリスティーネが国盗りする時に、ピンチに陥った前国王が使うアイテム。これを使って強くなるか、ダンジョンの玉座まで転移できるのではないかと考えている。
さらに最悪なことは、この黒い球を使えばファフニールが操れること。もしくは、モンスターを操ってスタンピードを起こせるのではないかとも思っている。
「ビンゴってどういうこと?」
「いや、なんでもない。それよりお願いなんだけど、これ、僕に預けてくれない??」
「これをですか……」
クリスティーネとしては、国の宝の可能性もあるので即答できない。しかしフィリップが初めて緊張した顔を見せるので、彼女として譲りたくなっている。
「どうするかによります」
「どうもしないよ。封印するだけ。たぶん、これはかなりヤバイ物だから、いまのうちに隠しておきたいの」
「それだけ? 売ったりしないのですか??」
「僕がお金持ちなの知ってるでしょ。あ、別の物と交換しよっか? これなんてどう??」
フィリップは早口でショルダーバッグに手を突っ込み、光り輝くオーブを取り出した。
「綺麗……」
「どうどう? こっちのほうがお宝っぽくない??」
「はい……凄く高そうなのは置いておいて……」
この光のオーブは、ダンジョンの最下層のモンスターが極々
「え~い! これも付けちゃう!!」
「いえ、お金の問題じゃなくてですね……銅貨??」
「初代硬貨だよ」
「な、なんでそんなの持ってるんですか!? かかか、返します!!」
「え~。売ってよ~」
「お金の問題じゃないと言いたいところですけど、お金の問題なんです!!」
「もっと欲しいと……」
「違います違います! そのオーブだけで充分なんです~~~!!」
フィリップ勘違い。クリスティーネの反応が鈍かったのは、光のオーブに見惚れていただけ。それなのに、領地が買えるほど高いと言われている初代硬貨を握らされたからには、クリスティーネはキャパオーバーになるのであったとさ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます